第55章 事件
なで…
そっと、泣きつかれた子供のように眠りにつくケイトの頭を撫でる中…
胸の内で膨れ上がる愛おしさのままに腕の中へと閉じ込めた。
フィン「ケイト…」
ケイト「すー…すー…」
呼び掛けてみたが、深い眠りについているようで…
ふと見つめてみると、泣き腫らした目が目に入った。
未だ左腕をケイトの腰に回したまま…右手で目を周りにそっと触れて撫でてから、唇を落とした。
できるなら…もう、泣かせたくはない。
哀しみで泣き崩れる姿は、見たくない。
もう…個人の意思すらも無くして、他人にいいように振り回される操り人形のような姿は…見たくない。
抜け殻のように意思を無くした君を…もう、見たくはない。
それでも…嬉し泣きはして欲しい。
感情の発露を、もっと増やして欲しい。
僕へ与えてくれたように…初めて嬉し泣きというものを現実にしてくれたように……
夢物語だと思っていたそれが現実になった時…言葉では言い表せないほどの何かが込み上げてきた。
と同時に、『喪いたくない』という想いも相乗的に膨れ上がった。
今になって…君と出会ってから感じた理由が、よくわかる。
喪うべきではない、喪っていい存在では無い、もし逃せば――後悔することになる、と
それは間違いではなかった。
コクーンは理想郷だ。
彼女が死んでいたならば、決して実現などし得なかっただろう。
救われる姿も、今ああして笑みを浮かべる領民達も…いいように虐げられ人間不信に陥ったまま、それまでの頑張りも報われず死んでいっただろうと――
僕だけでは無かった…
救われたのも、日々に安らぎを…平穏や彩を齎されたのも……
最後の最後で現れた――希望そのものとなっていたことも