第52章 メシア・デイ・イヴ
闘技場に響き渡るほどの張り裂けんがばかりの大声が、僕の喉を震わせる…
泣き震えるケイトに対して、そっと唇を落とす中…更に歓声が沸き上がる。
自分の歴史は…自分だけのもの。
感性も違う、拘りも、心の内に沸き上がる想い、それに掛ける重さも…
辛苦も、痛みも…吐いて捨てるほどに味わった。
清濁を併せ呑む覚悟は…両親を喪った時からできていた。
それでも…失ってからでは遅いと…死に掛けた君を見て、気付いた。
何度でも…愚かだった頃の僕が、頭によぎる。
『絶望』だと思っていた。
知恵を使えばやりようはある。対抗のしようはある。
生きる為とは言え、自らを卑下してまで生きる姿勢を恥じた。
唾棄し、嫌っていた。
馬鹿にされ、何も言い返さず、時には奪われていく。
小人族(パルゥム)だというだけで何もかも諦めたように笑い、自身を卑下する両親を、同族達を…『勇気』無き者と認識していた……
しかし…愛情は、確かにあった。
養い、助け…たくさんのものを、思い出を与えてくれた。
(両親がディムナへしてくれていたことが脳裏によぎる)←716,1260ページ参照
身を持って、証明してくれた。
(両親が怪物にひるまず、ディムナの前へ飛び出す姿が浮かぶ)
『絶望』だと思っていたものは『希望』だと、失う時になってから気付いた。
大切なものの為に自らを顧みず、助けようとする姿勢に…
真の『勇気』を知った。
すぐ傍で冷たくなっていくそれを、他種族の大人達が仇である怪物を倒す光景を、ただ見ていることしかできなかった。
そして逃げていく同胞(同族)に、絶望した。
小人族(パルゥム)というだけで、すぐ下に見る輩を見返したかった。
その評価を覆したかった。
フィアナのように在ろうとした。
そうすることで、護ろうとした…知識だけでは成り立たないとも思わず、蛮勇すらないことにさえも気付かずに。
しかし守ろうとしたのは…自分だったのかもしれない。
得るはずだった不快感から、自分を守ることに『も』繋がっていたから。
でも…君と出会ってから教わった。
何故言い返さないのかも、傷を与えることを恐れる心も…
何も生まない争いはどちらも疲れるだけだから元からない方がいいという姿勢も……
両親が何故、ああいう行動に至ったかが…痛いほどに伝わってきた。