第52章 メシア・デイ・イヴ
傘に着ない態度が、裏表のない人格が好き。
ケイトのことについて、領民の皆からそう言われていた。
生まれついてのアスペルガー症候群については、何とも思われていないそうだ。
大事にしてくれるのだからいい、と。
アスペルガー症候群というのは、目に見えない発達障害とも言われている。
人とのコミュニケーション能力、社会で暮らす為に必要な能力が欠如しており、今後も発達しにくいとのことだ。
しかし経験さえ積めばいいのだが、そう簡単に事が済むはずもない。
イントネーションから、声の起伏から読み取ろうと頑張っているが経験が圧倒的に足りない。
否定され続けた経験が多過ぎる上、フラッシュバックしやすい『自閉症スペクトラム』もあるからか
余計に成長もできず、誤解に対して強気に否定所か対応することさえもできず、悪化の一途を辿っている。
赤ん坊のように純粋で無垢なのだが…
穢れた人間達は否定しないのをいいこととばかりに、余計に害する言葉ばかり吐き掛ける。
これでは経験を積む以前に壊れる。
人間との関わり合いを捨てた方が一番確実に安全だとも言える。
話しかけられれば対応はできる。
できるのだが、具体的に言われないとできない部分がある。
抽象的な表現や曖昧なそれでは分かり辛く、意図が伝わり辛い。
知能指数は高いし読み書きも計算も問題はない。
問題があるのはそこだけなのだが…
ただでさえ厄介なことに、人と関わった際のフラッシュバックとなる過去が凄惨なものしかない。
多人数の人に囲まれていることを強く自覚してしまえば、間違いなく混乱に陥る。
僕がいれば耐えれるほどにはなったが…
そういう人ばかりではないと頭では理解していたとしても、力が暴発するほどに動揺することは在り得なくはない。
慣れが必要なのだが…果たしてできるだろうか?
その不安は、杞憂に終わった。
なんてことはない…
前々世での王としての立ち振る舞いを実行に移したのだ。
開会式でのイベントの解説、演説を終えた後…僕は称賛した。
しかし…ケイトが言うには、これ(障害)が無ければ自分は違った自分だっただろうとのこと。
個性の一つとして捉えているようだ。
どうやってそこまで整理したのか尋ねてみると…
自らで考えて考えて考え抜いて、辿り着いた答えだそうだ。