第49章 真の力
事象そのものにも力を浸透させるよう働きかけ、起ころうとする事象のみ爆散するよう制御すれば…
確実に、任意の事象だけを無とできる。
実験してみた所、力そのものにも何の抵抗も無くするりと奥にまで浸透していった。
事象の主導権を力尽くで奪うのでもない、直接力を発動しない状態へとさせる。
そう把握した僕は、それにひたすら慣れる為に四方八方に存在する力へ向けて使った。
使って、使って、使い続けて…自然と入り込むと同時にそれが発動するよう働きかけ続けまくった。
強烈な力による事象の書き換えではない。
非力が故に力や物質の奥まで入り込み、事象の発生源まで滑り込んで直接働きかけ、消失させる。
事象そのものの消失――スタント・ゼロ。
欠点は…防御技がないこと。かな?
長所は…防ぐ手立てがないこと。
分子レベルに力の粒が小さい分凝集した際の同体積での力の大きさは上になるが、付着・凝集性が高く流動性が悪い。
一つ一つの密度もまた小さく、圧縮にも向かない。ただ集めるしか出来ないが、それさえも時間がかかる。間に合わない。
なら一つ一つ同時に操作し、外から入って中央を目指せばいい。
力を集めて放つ方が速いのはケイト。
だが僕の場合、集めて放つより放ってから働きかけた方が速い。
魔力とは違って集めて放つではなく、力の粒の一つ一つに意識を向けて扱いこなすことに意識を集中させていた。
それからは数分も経たず、完全に制御をものにしたわけで…
周囲一帯の事象そのものを消失させ、徐々にその範囲を広げて部屋全体の事象を支配した。
精霊王「お主…要領がいいのお;」
フィン「ん?」
精霊王「よもや僅か数分でやりおるとは;
無意識の内にできるよう完全に身に付けおるし;大したものじゃ。
ケイトでも1時間かかったというのに」
フィン「それほどでもないさ。
第一、ケイトのように0からじゃない。既に基礎は教わっていたからね」
精霊王「まったく…食えん奴よのお。
こんな時までケイトを立ておるか」
フィン「妻を蔑ろにする夫はいないさ。
妻がいなければ…僕は、ここまで成長できなかった」微笑
左手の薬指で光る「ケイトとの結婚指輪」を見つめながら、僕は微笑んだ。
それに対して…精霊王もまた複雑そうな、それでありながら…温かな笑みと目を向けてくれたのを感じた。