第44章 出産後
家でも学校でも居場所も、安心できる場所も無く、気が休まる時間など一時さえも無い。
たとえ今彼等彼女等が知ったとして、言えることは既に決まっている。
「何も知らなかったから」
知らなかったら何をやってもいいの?
知ろうとしなかったの間違いでしょ?
そう返したい中でもなお声が出ないそれを無視し、聞こうとはしないだろう。
生まれ持った障害も何も、フラッシュバックによる生々しい恐怖から声が出なくなるそれも
些細な共通点から容易に想起され、フラッシュバックに伴い当時の生々しい苦痛が心の内で叫び声をあげ、恐怖によるそれに何もでなくなるそれも…
何もかもが…普通の家庭では得られないものには違いないのだから。
友も居なければ、味方する者も一切合切居らず、聞いてくれる者も居ない上に真面目に取り合ってくれる人もいない。
寄り添う者も居ない、寄り添う母は居ても一方的に叫ばれ続けるだけで何も言えない。気持ちがわかるからこそ言えない。聞いてもくれない。ペースに合わせてもくれない。
押し殺し続けていた自分の意志や主張、湧いて出てくる感情や心さえも、それらを全て無いものとすることで耐えてきた。
次第に感情も心も、感覚までもが鈍化していった。
それが…育ての家族や僕達に出会ったことで、異様なほどに変わっていった。
育ての家族に出会い、そういう人ばかりではないことを知った。
人は誰もが違って当たり前、善悪というのは自分という観点から見てのそれでしかなく、されて嫌だと感じる理由の説明、ひいてはその主張もないままわかるのは無理難題だと知った。
妹の出産に立ち会い、世話をして…そこで生きようと思えるにまで、回復した。
まだ口に出せるほどではなかったが、育ての家族相手では話せる程度までになった。
それもなお奪われ、記憶喪失に至った後…精霊に導かれるままオラリオへ来た。
ロキ・ファミリアに来て、アイズに単独で勝って入団し、記憶を取り戻し…
そして――たくさんの出来事を経て、ここに居たいと主張できるほどにまで回復した。
感覚も、感情も、心も、意思も…自ら抱いた意志さえも、口にして出せるようになった。
最愛の人と出会えたことが、とても嬉しい。
もっと――もっと、引っ付いていたい。
この温もりを、離したくはない――
その強い想いが伝わってきた…