第37章 アイズの気持ち
目の前にある『幸せ』と向き合うことが出来た――
それまでの私なら、想像さえもしなかったもの。
それを、自然とケイトは与えてくれていた。
出会えてよかったと、心から思った。
何気ないもののどれもが、恵まれているものだと理解することができた。
だからこそ、何度でも想う…
彼女を守りたいと、救いたいと……
実際、そんな(幸せと向き合う)余裕さえも無かった。
そんなもの(幸せ)に呑まれて堕落し、牙を抜かれるぐらいならばと強さを求めることだけに執着していた。
ううん…失うのが怖くて、強く在ろうと必死にのめり込んでいた。
それを心配していたロキ達の気持ちが…ケイトを見ていて、痛いほどわかった。
無茶ばかりするケイトを見るのが…とても痛々しくて、見ていられなかった。
私は…周りを見てなかった。
見えているものにさえ、目を向けていなかった。
ただ…強さばかりを求めていた。それよりも上はないと思っていた。
…失った後では、何も出来ないから。遅過ぎるからっ…
そうして思考に蓋をして、強さだけを求めてひたすらに奮闘し続けていた。
無理やりにでも止めようとされず、理解して甘んじて受け入れてくれる環境に甘えていた。
目を向けようとすれば、いつでも気付けたのに…
気付いていたのに、それでも…それを『幸せ』と捉えていなかった。
それに目を向ける暇があるならと、修業に迷宮に…そればかりに……
だからこそ…ケイトに出会えて、本当によかったと思う。
修業や迷宮ばかりが、『強さ』だけが全てではない。
大切だと理解すればするほど、失いたくないほどに、より強く在ろうと頑張れる。
それを教わることが出来た。
自分を見つめ直すことも、『幸せ』と向き合うことをも出来た。
ケイト以外では駄目だと…はっきりと思った。
だから…フィンに隣を取られている事が、とても嫌だった。
嫉妬というものを知って、「ケイトの傍に居たい、独占したい」という気持ちを知って、ケイトという存在そのものにドキドキして…この気持ちが『恋』だと理解した。
失いかけた時の哀しみが今までにない程に深くて…溺れ死ぬと錯覚する程、ケイトへ寄せる想いが大きいことを理解して結婚したいと伝えた。
ケイトがいないことに堪えられなかった。
何より…いなければ、『今の私』はいなかった――