第37章 アイズの気持ち
はっきり言って…同じ思いをしたことさえもなく温室で育った人を仇のように思い、人という存在そのものさえも憎んでいることだろう。
だが、彼女の性格上…この痛みや苦しみを与えたくないという想いが強過ぎるあまり、顔色ばかりを窺うようになった。
取り入ろうとしていると感じる人もいたのかもしれない。そんな気もないことを彼等彼女等は認めず、決め付けて誹り続けた。
だからこそさぞかし憎んでいることだろう、そのような環境に身を置いてない輩を、特に生みの父親から殺されかけもせず苦労も知らずに人のそれを笑って見過ごせる輩を…
特に、甘い幻想という優しい環境で育ち、さも当然であるかのように周囲へ優しさを振りまく輩を。
それらの情報を軽くアイズへ伝える中、アイズは一言呟いた。
アイズ「…ベルのこと、嫌いだって言っていた」
フィン「ああ…そうだろうね」
アイズ「でも死んで欲しくはないって」
フィン「嫌いだからって死を望む輩ではないからね、ケイトは。
争いとは無縁の優しい世界で生きてきた彼は、当然のように周囲へ優しさを振る舞う。
だが、ケイトにとって優しさとはそうじゃない。だからこそ彼という存在が目聡く映る。
同じ振る舞いでも、同じ内容の優しさであっても、そこには差異があるというわけだ。
辛い目に遭わされながらも振る舞われる優しさ…それははっきり言って、彼のそれとは天と地ほど重さに差がある。
あんな目に遭いながら振る舞う事など…普通なら誰もできはしない。
何を憎んだらいいかもわからず、大人も子供も関係なしに…人という存在全てを憎んでいただろう。
傷付けられるのが当たり前だった。
だからこそ、僕達の態度に戸惑い、動揺し…おかしいと感じたことを素直に伝えてこられた。
それに嘘偽りはないし、本気で迷っていたんだろう。
その上で…彼女は決めた。
その今も身を焦がし続ける憎しみと向き合った上で、それでもなお共に生き、共に笑おうと…
軽く伝えたわけだけれど……それでも…彼女のことを救える気でいるのかい?
常に彼女を苦しめ続けてきた種族、ヒューマンである君が」
彼女の覚悟を知る為、想いの深さを知る為…不躾ではあるけれど、厳しめな言葉をかけた。
だが…アイズの眼は未だ鋭く、それだけで伝わってきた…
真剣にケイトを想い、心から慕っていることが。