第35章 成長
変わってしまった…
ケイト『はっ…人に優しくした分優しくされる世界なら、最初からこんなに苦労なんざするはずもないのにな』
荒んだ眼で見下ろしていた。見下していた。暗殺に享楽を見出す暗殺者に、しようとされた事象をそのまま返し、両腕両足を斬って。
5分の体感時間が5000年になるよう自分が人にしようとしたことと全く同じことをされる魔法をかけただけ。それも全部治した上で気絶させた上で…される側の気持ちを痛みごと、その身へ叩き込んだ。
だが…
ケイト『馬鹿だよな…本当に(天を仰ぐ)
ちゃんとした幸せを掴んで欲しいなんて…
(育ての家族と共に笑い合う光景が脳裏に浮かぶ)
その可能性は0じゃないのに、それごと未来を奪う『殺し』なんて…私には…結局、できなかった』
涙を流しながら天を仰ぎ、困ったように笑みを浮かべていた彼女は…
今までの、いつもの彼女と変わらず…全く同じだった。
本質だけは決して変わってはいないのだとすぐわかった。
結局は…どこまでも優しかった。
傷付けることさえ躊躇い、できずにばかりいた。
そんな彼女は、オッタルを傷付けてでも帰ろうとしてくれた。後で必ず治した。
変えた元凶である始祖神の人格に怒りもした。←1161ページ参照
けれど…元々の彼女が消えること等、在りはしなかった。
真っ直ぐで、直向きで…あまりにも純粋で、無邪気で…そこが本当に、可愛らしくって……
だから……だから…変わって欲しくないと願う自分がいた。
純白な彼女が、何かに汚れては欲しくなかった。
けれど、それは土台無理な話だった。
僕自身、ただ生意気だった幼い頃とは…かけ離れるほどに、今という幸せを噛み締めている。
これは、変化というよりは成長だ。今までにない経験を経て、感情を与えてもらって…変わっていった。
始祖神の記憶を経て、どう思ったのか、どうして両腕両足を迷いなく斬れるまでに至ったのか…僕はまだ知らない。
だが…迷えば、より僕達が危なくなると考えてのことなのだろうと…今になって思う。
フィン「後で…また、いつか…始祖神に謝らないといけないね…)
でも…今はっ、それ以上に……
ケイトが…少しでも、幸せな…夢、を……」かくっ
槍を片手に、膝の上の温もりに身を埋めながら無防備にも寝る中…
優しく、潮風が僕達を包み込んだ。