第33章 ケイト調査票
実際の所…
父親から常日頃されてきたこともあってか、高圧的に出られると声が出なくなる。
母親から愚痴の捌け口にされてばかりいた為か、主張が乏しく聞き手に回ることが多い。
しかし否定すれば喚かれどやされることからか、愚痴を聞いている際は半ば放心状態が多い。
重要部分だけ抜き取るようにしているらしい。
父親起因からか男性が特に苦手で、苦手なタイプだと口ごもる。返事もできなくなる。反応も見るからに遅い。
女性でも苦手なタイプだとおろおろしたり慌てたりもしていたが、ティオネのお陰か大分とマシになった。
落ち着いて話せるようにもなったし、何より…ちゃんと真っ直ぐ目を見て話せるようになっている。
ただ…15年という歳月をいいようにされ続けてきたこともあってか、自己評価が極めて低い。
「周りが助かるなら自分などどうなっても」、「自分がいるせいで周りに不幸が及ぶ」などという思考回路を抱くまで集団で拒絶、批判され続けてきた。
否定を一切許さないその強硬的な姿勢は父を想起させ、それによって家でも学校でも外でもそうするのが通例となってしまったんだろう。
挙句の果てに育ての家族をその場にいなかったが為に護れず、蘇らせようとしてもできずにいた時、周囲に言われるがままに自らのせいだと考え、自らの全てを殺そうと考え実行する始末だ。
心を殺し、感情を殺し、それでもなお…周囲は止めずに続けた。
結果として…記憶喪失に陥るまでに追い込んでしまった、というわけだ。
今でこそ感情を表に出せてはいるわけだが…
街の者を見た瞬間…とても、見ていられないほどに怯え切っていた。
二度と会わせてはいけない。
それは、ロキ・ファミリア全員の総意だ。
恐らく…また会い、そのようなことが再びあれば…
今度こそ、修復不可能なほどに心も感情も…その全てが壊れてしまうだろう。
だからこその処刑だったわけだが…本人はその方法については辟易しているようで、いっそ一息にして欲しかったとのことだ。
苦しむ時間は最小限にして欲しい、どうせあの世でもっと苦しい目に遭うのだろうからと…
優し過ぎるにもほどがあると、僕等の中では共通の意見として未だ語られている。
何にせよ…「彼女は、本人以上に思い遣れる慈愛を持った善人だ」と僕は思う。