第33章 ケイト調査票
『英雄』とは――決して、『なる』ものではない。
天秤にかけ、どちらを捨てることなどない。
心を抱く者の『哀しみ』に寄り添い、たとえそれが何であったとしても傷付けてきた者だとしてもなお、是が非でも助けようとする『馬鹿』のことだ。
と言っても、殺すことを幸とする輩は護りようがないし、殺すしかないわけだが…。
手の届く範囲は人によって違う。
しかし…界隈であっても、助けられる人がいれば…話もまた変わってくる。
その道を、共に進もうと思った。
進みたいと、心から思わされてしまった。
愚かなほどに眩しく、純粋な彼女が…好きで堪らなくなったその時から。
ケイトに出会わなければ…共に過ごさなければ…
こんなに些細なことを、幸せだと感じ入ることもなかっただろう……
ケイトもまた、同じ気持ちだと言ってくれた。
気持ちが通じ合うこと、繋がりが深まる度に…失う痛みが強まっていく。
今度こそ…失いたくはない。奪われたくもない。
目の前で失うのも、気付かない内に無くすのも……
絶対に嫌だ!絶対に失わせない!!二度と繰り返してなるものか!!!
そう叫んで憚らない自分の存在を強く感じた。
作り上げてきた僕(フィン)だけじゃない…
心の底深くに押し込めた俺(ディムナ)までもが……一緒になって叫んでいた。
こんなにも恋い焦がれていたのかと…その時になって気付いた。
だからこそ…想った。失いかけたからこそ強まった。
何を犠牲にしようとも、何を失うことになろうとも、彼女だけは守り抜いてみせると――
俺(ディムナ)も、自分で作り上げた僕(フィン)も…
どちらも含めて『自分』という存在だと知った。教わった。
利用や打算が含まれていても嫌な顔一つせず、「私を護る為に街の人達と戦ってくれた、護ってくれた。私にとってはそれが人生で初めてだった。それが全てだ」と、「利用してくれて構わない、愛している」と言って憚らなかった。
向かい合った上で受け入れる彼女に、その度量に…自分の矮小さを知った。
僕もああなりたいと…感化された。
過去に類を見ない速度の飛躍によって得た二つ名、【英雄】に負けないそれこそが彼女であり…僕の目標だ。
僕達に今までにない強さを、変化を齎した『掛け替えのない同胞』であり、『大切な家族』だと、心から愛し想っている。