第33章 ケイト調査票

昔の僕ならば、決して怪物との共存など考えもしなかっただろう。

鼻で笑い、そんなものは理想論だと唾棄していたことだろう。


しかし、知ってしまった…

「人を心より愛し、助けようとする『ドン』という理知を持った怪物」の存在を…
強化種ミノタウロスもまた同じく理知を持った者で、ドンと話し、ライバルを求めていたことを。

だから…今となっては、そうは（理想論だとは）思えない。



怪物は、数多の人の命を奪ってきた。

家族、恋人、友…数え上げればきりもない。
古代から続いたそれは…大きな悔恨を残し、僕自身もまたそう思っていた。殺すべき存在だと――

数多くの冒険者はそう思っていたことだろう。


だが…変わってしまった。

ドンもまた、どのような仕打ちを受けても態度を変えなかった。
傷付けてきた者であっても護り、大切にした。主（ケイト）と同じように…

人よりも人らしく、人以上に思い遣りの深いその姿に…尊さを感じさせられた。



もしも怪物と手を組めば、怪物を怨む者から失墜を食らうだろう。
家族のようにドンと接するそれに、冒険者達の目は厳しかった。

人の口に戸は立てられない。
しかしドンの変わらない姿勢に、態度に、徐々に軟化されていった。

こういうモンスターもいるのだと割り切り、受け入れられるようになった。


彼女はどれほどの罵倒を受けようとも、結局は助けた。

心を持った怪物を助け、『異端の英雄』と呼ばれ、一部からは蔑まれたそれは…
今回の出来事を機に、『真の英雄』へと評価を改められた。



だから…僕も恐れないことにした。

人から罵倒され、一族の復興という野望が潰えたとしても、全てを失った後、『英雄』に返り咲こう。
今度は人工じゃない。怪物と融和を結んだ前代未聞の第一人者として…

周囲から、吹っ切れた表情をしていると言われるほどに。


それまでの僕は…全てを切り捨て、全てを利用してきた。
清濁を併せて呑んででも、フィアナになろうとした。

だが、フィアナ以上にならなければいけなかった。

その姿を…彼女の中に見た。

見てしまった…理知を持つ怪物と共に戦う姿に、『今までの歴史を覆した、怪物と融和する未来』を。