第32章 破滅の狼煙
突如唇を奪われたこともあって、硬直した。
ケイト「フィン…//」ぎゅうっ
抱き返し、寄りかかってしがみ付いてくるケイトに対し…僕は静かに抱き締めた。
数分も経たない内、食事を取る為に呼ばれたが仕方ない。
食事を取った後は警備をしていたが腐食液を出す芋虫も、食人花も出てくることは一切なかった。
静か過ぎる迷宮は、まるで嵐の前の静けさのように感じさせた…
5月8日(冒険者45日目)
日付が変わった頃、61階層から轟音が鳴り響く。何故か親指がひどく疼いた。
それに何事かと駆け付けた。
が、その駆け付けた瞬間にケイトがモンスターに引き寄せられ、食われかける。
「ノアール…ノアール!」
不意打ちだった為か対応が遅れ、ケイトが右手を残してツルの中へずるずると閉じ込められていく中
咄嗟に僕はケイトの手を掴んで引っ張り、僕ごとガレスが引っ張り出そうとする。
が、僕とガレスもまたツルで巻き込まれた時
いや、『ツルに触れた「瞬間」』から全身の力が抜け出した。
見たことのない外見から、新種のモンスターが持つ特殊能力だと悟った時には既に遅い。
ツルが絡みついて離れなくなっており、斬ろうにも斬れないほどになっていた。
しかも…それは強者であればあるほど吸い取る力が増すというものだった。
ブランシェのブラックホールのような性質も組み合わさっているようで、凶悪な組み合わせだと感じさせられた。
狂ったように「ノアール」と叫ぶブランシェの声をしたモンスターに、ケイトはより深く引き寄せられていた。
周囲がツルに触れないよう武器や大盾で牽制している中、僕は撤退準備を進めるよう叫んだ。
アイズ「【目覚めよ(テンペスト)】!」
その最中でアイズの風が僕達を捕らえていたツルを斬り裂く。
それを見た印象は、さほどツルは固くはない…?
いや、魔力で強化させた全身の力を一点にし、なおかつ風もまた剣先一点に凝縮させたものだからか。
何とかツルからケイトを引きずり出した後
なおも追いすがろうと手を伸ばすそれに対して間髪入れずにドンが火を吹き
それによって時間を稼いだ間に馬車へ飛び乗り、辛うじて撤退できた。
しかし…それが後に、大変な事態へ繋がることは明白だった――