第5章 藻裾の先行き
「それがわかんねぇから知りてぇなぁって思ったんですよ」
藻裾は声のトーンを落として独り言のように言った。
「アタシも会ったら殺してやりてぇと思ってる相手がいる」
眉間を拳でコツコツ叩いて、藻裾は黙って立って見返してくるサスケに焦点を合わせた。
「アタシは木の葉に行く。最後だと思って聞かせてくれよ」
「あら?本気で行くの?アンタ、行きたいとこがあって木の葉を出たんじゃないの?」
藻裾は真顔で意地の悪い表情を浮かべた大蛇丸に応えた。
「今のアタシは自由だ。何処に行くのも勝手だよ。行きたいとこに行きたいように行くんだ」
それに木の葉には磯の皆がいる。藻裾が帰るところがあるならばそこは磯だ。牡蠣殻だって杏古也だって、海士仁や過去自発的に里を抜けた磯人もそうだ。その筈だ。
失せる力を持つものは何処へでも行ける。
磯人は自由なのだ。何処へでも行ける。何時でも帰って来れる。本当はそうなのだ。里人のほとんどが、気付いていないか、気付いていて自ら磯に居るか。波平が一度散開させたことによって、里人の本心は明らかになった。今磯に残って波平と流離い続けている里人は、何処へでも行けるのに行かないことを選んだ、里の母体を担う宝だ。
そして里を離れて尚磯人足らんとする元の里人たちもまた、違う形で里の未来を担う宝。
アタシたちは同じ形じゃなくても磯を守って、繁栄させてかなきゃない。
その為に何が出来て何が出来ないか。
牡蠣殻さんとのことがあった後も波平様は海士仁を磯に出入りさせていた。もしかしてアイツは、里の役に立ってたんじゃないのか?
アタシは海士仁を殺していいんだろうか?
いや、そもそもアタシは海士仁を殺せるだろうか。
サスケに比べたら、アタシのこの気持ちは軽くて小さいのかも知れない。こういう気持ちに大きい小さいなんて意味あるのかな。
藻裾は改めてサスケに目を戻して、顔から笑みを消した。
「サスケ。アンタも仇がいるっていうから、凄く興味があった。アンタはあんまり話しちゃくれねえから代わりによくよく見てたけど、アンタはホントにそいつに打ち込んでるよな?ずっとアンタの真ん中は兄さんのイタチさんだ。兄さんが憎いんだよな?でも憎いと思った相手は傷付けていいものか?殺していいものか?」