第5章 藻裾の先行き
「何がリスペクトだ。オメェなんざアスベストで十分だ」
「僕は誰の健康も脅かしてないぞ」
「今んとこ表面化してねぇだけかもよ?アスベストの被害は長いスパンで見なきゃねえからなぁ。いつかコホンでもケホンでも咳き込みが来たら、でっかい訴訟を起こしてやっからな?」
「コホンやケホン程度で訴訟起こすヤツがあるかよ。龍角散舐めて黙ってりゃいいだろ?大体口を酷使し過ぎなんだよ、お前は。そりゃ喉も咳き込みたくなるって」
「アタシは花丸印の健康優良児だからな。生まれてこの方がっついてえずいたとき以外、咳き込んだことなんか一回もねぇの」
「………ああ。馬鹿は風邪引かないってヤツ?」
「ヤツ?とか聞くなら違うって言いますよ、アタシは。何回同じようなこと言わせんだ。バカタレ」
「煩い」
サスケが腹の底から低い声を出して、藻裾と水月の言い合いがピタリと止まる。
「今俺は大蛇丸と話しているんだ。邪魔するな」
「話しゃいいでしょうがよ。誰も止めちゃいねぇもん。アンタが誰と話したってそりゃアンタの勝手だし、アタシらがその横で話すのもアタシたちの勝手ってヤツだ。口出しされたくなきゃ人にも口出しすんじゃねぇよ」
藻裾が口を尖らせて肩を竦めた。
「いちいち煩ぇのはアンタの方だよ。静かに話したいんならふたりきりになれるとこに言って話しゃいい。人に指図すんじゃねぇや」
「いい考えね」
すかさず乗り気になった大蛇丸を見やり、サスケが眉を顰める。
「コイツと用もなくふたりきりになるつもりなどない」
「用がねぇならそれでいいじゃん。他所様の話の邪魔しなさんな」
呆れ顔の藻裾が、腕組みしてしげしげとサスケを見た。
「何でそう四六時中イライラしてんの?不機嫌面して人に当たってそれが何になる?」
「またその話か」
サスケがうんざりした様子で目尻を上げる。
大蛇丸が面白そうにふたりを見比べ、香燐は剣呑な目付きで藻裾を睨み付けて水月は溜め息を吐いた。その様子を見ると、何度も交わされた会話らしい。
「アンタが兄さんのことで思い詰めてんのはわかるけどさ。それはアンタの問題だよな?周りの空気を変えていいってもんじゃねぇ気がすんだけど。アタシも大概好き勝手してるけど、アンタ程突き抜けられねぇんだよなぁ」
「知ったことか。お前はお前の好きにしたらいいだろう」