第5章 藻裾の先行き
「余計な世話だ」
素っ気なく言ったサスケの尻馬に水月がのっかる。
「余計な世話どころか真冬にド放置で痩せたとか言うなって話だし。痩せたのはサスケだけじゃないっての」
「オメェは痩せたってちょっと水足しときゃ元通りの嵩に戻るんだろ?」
髪から滴る雪解け水を払って、藻裾が詰まらなさそうに言う。
「まぁな、腹が減るのは辛ぇこったよな。肉が食えねえ口なんか縫い合わせた方がマシだって気持ちもよくわかる」
「……誰もそんなこと言ってないぞ」
「言わなくたってわかるって。肉が食えねえ辛さは皆一緒だ」
「確かにアンタ、最初のうちは肉肉大騒ぎして大変だったね。重吾の可愛がってる鳥に襲いかかってスゲー揉めたもんな」
「野鳥は養うもんじゃねえ。食うもんです」
「まだ言うか。それ重吾に聞かれないようにしなよ。また面倒臭くなるから」
「クリスマスに鳥を食いたいって言ったのがそんなに悪いかよ。クリスマスに鳥を食うのは日本人の習性だっつの。DNAの螺旋に組み込まれてんだよ。そういうことになってんの」
「鶫や椋鳥をクリスマスに食うなんて聞いたことないぞ」
「そりゃオメェ、時代は変わってDNAにジビエが組み込まれたんだよ。生き物は存在するだけで進化してくもんだからな」
「それ進化って言う?退化じゃないの?」
「何でも食うって意味じゃ退化ってぇか、原点回帰って言えっかな?初めて海鼠や蛸を食った初心に戻りつつあるみてぇな?」
「……それは汐田だけの話だし、大体君は生まれながらに原点に居っぱなしでここまで来たんじゃないの?」
「何だ?アタシが原始的で野蛮だってか?頭から啜るぞ、このH2O」
「元素記号で呼ぶなよ!僕は原子じゃないぞ」
「バーカ、世の中ァ何でもかんでも原子の集合体なんだよ。……何だ、オメェ、実はUMAか?」
「UMAは原子の集合体じゃないわけ?じゃ何なのさ」
「知らねぇよ。調べたこともねぇし調べたいとも思わねぇし、見つけたら即踵落としでぶっ潰して売っ払ってやろうくらいしか思わねぇもん、そんな変なモン」
「汐田が自分の何処をもってして野蛮じゃないって言うのかわからない。野蛮以外の何者でもないよね、君」
「へえ?先輩の墓から墓標代わりの刀引っこ抜いて我が物面で使ってるヤツは野蛮じゃねぇんですかぁ?」
「……これは所謂リスペクトだ」