第1章 薬事場の三人
「…何に命運を握られてるんだ、お前…」
「…魚類系…ですかね?」
「…ぎょ…魚!?魚!?何だ、それは生まれついての呪いか何かか!?どれだけ業が深いんだ、牡蠣殻磯辺餅」
「誰が餅か、この右回り。餅は好かないと言ってるでしょう。一回で覚えろ、日向のルーキーなんだろ?牡蠣殻は餅を好かない!わかりましたか?わかった?大丈夫?インプットした?すかさずアウトプットして忘れちゃ駄目だよ?牡蠣殻は、餅が、嫌いです!」
「さては喉に詰まった事があるな?違うか、牡蠣殻」
「…ご名答ですよ。流石は日向のねじ式…読みが深い…」
「…全然褒められた気がしないし、まるで嬉しくもない。むしろ何を言われているのかさっぱりわからん…」
「そうでしょうとも。何せ言ってる私もよくわからない」
「なら黙ってろ」
「好きで話してるんじゃありませんよ。会話は一人じゃ成り立たないでしょう」
「…俺にも責任があるというのか」
「厭がる相手を散々餅呼ばわりしてないとでも思ってるんですか?真面目そうな顔してビックリするくらい面の皮が厚いな、オイ」
「…そうか…。一理あるな。悪かった、かき餅」
「…あなたなかなかやりますね…。一瞬黙りかけましたよ、私」
「あの、牡蠣殻さん…」
二人のやり取りをじっと我慢強く聞いていたヒナタが堪りかねて割って入った。
袷の袖に手を潜らせ、ネジとじっくりやり合う姿勢に入りかけていた牡蠣殻がヒナタを見て我に返る。
「ああ、こんな事をしている場合じゃありませんでしたね。奈良くんのところへ案内願えますか?朝早くから迷惑でしょうが、波平様を待つのは許して貰えないようなので…」
「わかっていないようならハッキリ言うが、お前は胡乱だ。牡蠣殻。事情が明らかになるまで目放しする訳にはいかない。俺もヒナタ様を屋敷に送り届けねばならない。何時現れるかわからない磯影を待つ気はない」
にべもなく言うネジに牡蠣殻は苦笑いした。
「では奈良くんのところへ連れて行って下さい」
「伊草さんがいます」
ヒナタに言われて牡蠣殻がふいと眉を上げた。
「奈良くんのところに?」
「は、はい」
「成る程。分かりました。では尚更奈良くんのところへ向かうのが正解でしょう。ありがとうございます。ヒナタさん」