第1章 薬事場の三人
陽が昇り始めた。
朝陽に陰影を濃くする顔岩を見上げたらば、また咳が出た。
鳩尾が痛む。草を離れて幾日経ったか。即ち薬を断って幾日か。
目が、無意識に見開く事が増えた。空咳と、切迫感。訳もない不安、必要以上の自衛意思。
生唾を呑んで頭を振る。しっかりしなければならない。先生と杏可也さんのお子を守らなくては。
息を吐いて、また吸う。
深く身を任せて何の疑問も不安もなく過ごせた太く長い腕の温もりを思ったらば、何故か腹の虫が鳴いた。何か食べたい。
「奈良くんのうちで朝御飯は出ますかねぇ」
のんびり言うと、ヒナタが笑った。
「今時期ならあったかいお雑炊が出ると思います。シカマルくんのうちは山や森を管理しているから、山菜がいっぱいあるんです」
「きのこの味噌雑炊だな。毎年シカマルが飽きたとこぼす朝食だ」
腕組みして顔岩を見上げながらネジも頷く。
「玉子を落とすと滅法美味い。シカマルは贅沢だな」
「はー、それは美味しそうですねぇ」
また鳴った腹を撫で擦って、牡蠣殻はにっこりした。
一平は何処にいるのだろう。伊草のところだろうか。
鬼鮫はどうしているだろう。また、怒っているのだろうか。
薬事場に明るい陽が差し始めた。夜は開けだすと足が速い。
「行きましょう。私はまだ薬事場で顔見せしない方がいいでしょうから」
牡蠣殻はヒナタとネジを促して歩き出した。