第5章 藻裾の先行き
「つまりお前はボクをどうでもよく思ってるってことだな?」
「どうでもよく思ってなきゃ名前も覚えずにスイミーなんて呼んでねぇだろ?」
「…だよね…」
「どうでもよくなく思って欲しいんデスか?やだ、もしかしてスイミーってばアタシのこと……」
「君は赤い鰯に好かれて嬉しいか?」
「いや、それな。そう言やさ、考えてみたら赤いのは他の皆さんで、スイミーはひとりで黒いんだよな」
「あれ?そうだったっけ?」
「そうなんだよ。だから目玉役が出来た訳でさ。スイミーはきらびやかな他種の魚群に紛れ込んだロンリーサーディンの疑いがあんじゃねぇかっていう…。図々しいね、スイミー」
「思いっきりボクに振るなよ。ボクは鰯じゃないしスイミーじゃないし」
「水月でもないしってか?」
「………じゃあ何なんだよ」
「他の皆さん」
「さっきっから気になってたんだけどさ!それってカモメのジョナサンだよね!?自意識過剰で家出願望ありでどこまでも飛んでって行方不明になったカモメが生み出した丁寧なモブの呼び方だよね!?」
「いやオメェ、ジョナサンバカにすんな?ヤツは光るカモメに連れられて、長老ンとこで修行を積んで、瞬間移動を身に付けて、挙げ句にゃ弟子付きで舞い戻ってくんだぞ?鳥だけに。プッ」
「何ソレ?ドラゴンボールか何かの話?」
「考え深くてストイックなジョナサンというカモメの話だよ。何処にでも難儀なヤツはいるモンだ。家族も大変だったろうな。気の毒に…」
「ジョナサンの家族に向ける優しさの百分の一でもこっちに振り分けてくれたら、もう少し付き合い易いんだけどな…」
「オメェと付き合い易くなってもなァ…」
「…何だよ」
「何って…何にもならないってぇかさぁ…」
「ムカつく…」
「だろぉ?だからホラ、付き合い易くする必要なんざねんデスよ。どうせ何時までもここにいる訳でもなし」
「それだよ!大体君はここで何してンの!?いきなり現れてフツーにタダ飯食らって長居しちゃってさぁ!?」
「うーん」
藻裾は腕を組んで難しい顔をした。
雪がチラチラと降り始めている。凄く寒い。
「…兎に角中に入んないスかね?さみィよ、ここにいちゃ」