第4章 牡蠣殻磯辺
「そうですか。虫が好かない…」
「…何じゃ、その目は。文句でもあるのか?ん?」
「いえ。ただ…」
「ただ何じゃ」
「先代とあなたは似ておられるような気がすると思っただけです」
「バカ、何を言い出す!止めろ、気持ち悪い」
「気持ち悪い?そんなにお厭ですか。破波様も嫌われたものですね。いや、失礼しました」
「プッ」
目を吊り上げた自来也から身を引いた牡蠣殻に綱手が噴き出し、ついで豪快に笑い出した。
「あっはっはっは、気にするな、牡蠣殻。それを言ったのはお前が初めてじゃない。懐かしいな」
「大蛇丸じゃな。腹立つのう」
大蛇丸。
渋い顔をした自来也の発した名前にふっと目を細めた牡蠣殻が、次いでうっすらと笑った。
見咎めた綱手が眉を上げる。牡蠣殻は大蛇丸と半年、姿をくらましていたことがある。
伊草を連れて草から出奔した理由は元より、国境沿いに頻発した山賊たちの理屈の合わない失血死、暗部に追われて砂に匿われていたこと、大蛇丸と消えたこと、特殊な血の質、巧者の技、そして、胡乱な暁との関わり。
「お前とは色々と話したいことがある」
面倒事の塊のような牡蠣殻が、ニコッと笑った。
「いいえ。私と話しても益はありませんよ。関わらないのが一番いい。波平様にお話して、早めにここを出るつもりです。如何に弱小と言えど磯も一個の里、寄らば大樹の陰とばかりに木の葉に頼り、惰弱なやりようを覚えては根が腐ります。それでなくとも散開の際にご迷惑をおかけしているのです。これ以上の甘えは禁物。ー誰が何を波平様に吹き込んだのかは知りませんが…」
口許を指先で拭うように撫で、牡蠣殻はふっと目を落とした。心当たりありの風情だが、それを言う気はないらしい。
「私は一平様の為に磯に呼ばれたのです。これもまた木の葉には厄介の種。私たちがここにいたところでこの里に利するところはひとつもありません。関わらないのが一番いいのです」
「当面、磯はここに逗留することになろう。里長たる波平がそう言っている。私はそれを承けるつもりだ。薬事場の側に起居の場を構えてやる。木の葉でゆっくり養生するがいい」
聞かぬ顔で綱手が言い切った。やんわりとではあるが、反論を許さない響きの籠った、人の上に立つ者の物言い。