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連れ立って歩く 其の五 木の葉編 ー干柿鬼鮫ー

第4章 牡蠣殻磯辺



「イチャイチャパラダイスと聞いて思い出すことはないか」

「…何言ってるんですか。絡み辛い人だな…」

「お前が本好きと聞いたからワシの本を置き土産にしたろう!?」

「あなたの本?置き土産?置き土産がイチャイチャパラダイス…?」

寝台に半身起こした格好で腕を組み、牡蠣殻は暫し考え込んだ。傍らで雪渡りが訝しげに牡蠣殻を見上げている。

「ああ」

やがて退屈した雪渡りに肘を啄まれて、牡蠣殻はパチッと額を叩いた。

「深水先生に鼻血を噴かせた本を持って来られた破廉恥な三忍さんですか?思い出しましたよ。大先生が子供にやる土産の善し悪しもまともに考えられないような、あんな大人になったら苦労すると仰ってましたが、どうです?苦労なされてます?」

「周りがな」

腰に両の手をあてて憮然と言い放った綱手に、牡蠣殻は気の毒そうな目を向けた。

「ああ、成る程…」

「…腹立つのぉ」

「ろくでもない思い出話は後にしろ。牡蠣殻、波平が来ている。どうだ、今会えるか」

にべもなく言って自来也を黙らせた綱手が牡蠣殻に尋ねた。
体調的などうだなのか、心情的などうだなのか、計りかねた牡蠣殻は曖昧に頷いた。どっちにしろ、自ら波平に従ってここまで来たのだ。会わないでいる道理がない。むしろそんなことを聞かれるのが不思議だ。

「今私が波平様に会うと何か不都合でも?」

逆に尋ねると綱手は虚を突かれた顔をした。

「何故そんなことを聞く。不都合があるなら初めから聞かないぞ」

「私や波平様がここにいることが既に慮外で不都合なのではございませんか?」

「慮外なぁ。確かに慮外と言えば慮外」

綱手は小首を傾げて牡蠣殻を眺め、ふーんと鼻息を漏らした。

「思っていた牡蠣殻磯辺と違う牡蠣殻磯辺が来た」

「…と、仰いますと?」

綱手の物言いに牡蠣殻は戸惑った。

「面識がなければ情報も希薄な相手をあれこれ考えるのは無為なことだな。ありもしない人間が出来上がってしまう」

この人の頭の中でどういう牡蠣殻磯辺が練り上がっていたのか、牡蠣殻は曖昧な顔で目を泳がせた。ここでもまた綱手の真意が計れず返答出来ない。

「もうちょっと悪げな牡蠣殻が来るかと思っていたが、お前は何だか…」

「口は達者だが思っていたような悪には見えない」

横から自来也が後を取った。
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