第1章 薬事場の三人
「何だ」
「はい」
ネジとヒナタの声が重なって、牡蠣殻はああと笑いながら頭を掻いた。
「お二方とも日向でしたね。ヒナタさん、ヒナタさんの方の日向さんにお声掛け頂いたのですよ」
「ややこしい物言いをするな」
ネジが呆れた様に構えを解いた。その陰でヒナタがコッソリ笑う。イトコと違って素直で可愛いコだ。
笑い返した牡蠣殻に、可愛くない方の日向が険しい顔を向ける。
「磯の三代目の意向で来たのか」
「まあそうですね」
「なのに三代目を置いて来た?何でだ?」
「本当に何ででしょう。お陰で話が面倒になってしまいました。困りましたね」
「…何なんだ、お前は」
「不本意ながらよく耳にするフレーズなんですよねぇ、ソレ」
苦笑いして牡蠣殻は腕組みを解いた。
「何なら一緒に磯影を待ちますか?そうすれば誰か呼び出して頂かなくとも構いませんよ」
「そんな暇はない。屋敷で皆がヒナタ様を心配している」
「…あの…」
渋い顔で言うネジの陰から、ヒナタがおずおずと声を上げた。振り向いたネジを見上げて、一拍置いて提案する。
「シカマルくんのところへ案内したらいいんじゃないかと思うんだけど…。シカマルくんは薬事場の相談役だし、波平さんとも面識があるから」
「ああ!そうですね。彼なら話が早い」
牡蠣殻がまた手を打った。
「幸い私も彼とは面識がありますし。言ったら日向のネジさんの方ともなくはないですが、ネジの方の日向さんと来たら初対面かってくらい冷たくて話にならないですもんねぇ…。その点奈良くんなら話し易い。妙案ですよ、ヒナタさんの方の日向さん」
「日向の方のネジだのヒナタだの、変な言い回しをするな。普通に呼べ。こんがらがる」
「そうですか?ではネジ」
「…いきなり呼び捨てか。気分が悪いな…」
「あなただって私を呼び捨てるでしょう。しかもフルネームで。気分が悪いですよ」
「牡蠣殻」
「…捻って来ましたね。しかしフルネームじゃないからムカつかないってモンじゃありませんよ、日向ネジ」
「人が厭がる事はしちゃいけないのだぞ、牡蠣殻磯辺」
「どの口で言いますか、弁えなさい。ネジ回し」
「…俺は飽くまでネジだ。ドライバーじゃない」
「ねじ式?メメクラゲに刺されてしまいましたか?」
「誰がつげ義春だ。磯辺餅」
「何だとこの野郎。私は餅は嫌いです」