第1章 薬事場の三人
ヒナタと呼ばれた少女に目を移して、牡蠣殻は深く頷いた。
「よく似ていらっしゃる」
瞳に見覚えがあると感じたのは的外れではなかった訳だ。的を外すにはあまりに特徴的な瞳である。
態勢を変えた訳でもないのにネジが身構えたのがわかった。その背後でヒナタが身動ぐ。
いやいやいや、完全にやらかしたな。
肩から力を脱いて何時でも腕を振り抜けるよう意識しながら、牡蠣殻は足を前後に開いた。
浅慮に愚考を重ねる。牡蠣殻磯辺が我を言うならばこうなる。干柿鬼鮫も似たような事を言うだろう、きっと。
いよいよ波平の不在が自業自得で身に伸し掛かり、牡蠣殻は口角を上げて深く息を吸った。
「今木の葉には磯が逗留している筈ですが」
慎重に問えば、ネジはあからさまに構えて眉を顰めた。
「聞いていない。そもそもお前は最早磯者ではないだろう」
「私が磯者じゃないのは確かですよ」
磯が木の葉に逗留しているのは周知されていないのか。
牡蠣殻は内心舌打ちした。我も浅慮だが波平も浅慮だ。
幾ら小里が同郷の暮らす薬事場に紛れようと、数十人からの頭数を誤魔化しきれるものではない。
まして薬事場はあの敏い奈良シカマルが相談役として関わっているのだ。磯が木の葉に入ったのは日が浅い事と思われた。そこへビンゴブッカーたる牡蠣殻を招き入れるのは絶対に得策ではない。
「あなたの上役を呼んで下さいませんか」
ネジの瞳が眇まる。牡蠣殻は両手を脇に垂らして戦意のない事を示す為に足場を変えて棒立ちになった。
「ガイ先生と言いましたか。あなたたちに奇天烈な胃薬を持たせた方は。あなたに話しても仕方ないとはいいませんが、正直その方と話した方が話が早いように思います」
「……」
ネジが穿つような目で牡蠣殻を睨み付けた。そんなネジの様子を敢えて無頓着に流し、牡蠣殻は腕組みして顎を撫でながら続ける。
「でなければはたけのカカシと仰る方か、三代目様のご子息でも結構です。磯の浮輪と面識のある方なら。いきなり五代目様にお目通りと言ったところで通りませんでしょう?話を通してくれる方にお会いしたいのですよ」
「五代目に何の用だ」
「私にもよくわかりません。うっかり話の出来る者を置いて来てしまったもので、立ち往生していたところに…えぇと、日向さん?」