第4章 牡蠣殻磯辺
「そのデカイ体で体重かけて来られたらこっちの腰がヤられるんだよ。マジで頼むから手だけにしてくんねえか?俺が潰れる」
「詰まらんのぅ。早う育てや、シカマル」
「アンタの為に育つ気はないからな、俺は」
揉めながら去るふたりをカカシが見守る。
何故草の伊草が磯の現れたこのタイミングでここにいるのか。
「胡散臭いねえ…」
呟いてカカシは顎を撫でた。
元の立場を捨てて来た?それが本当なら厄介だ。何のために今ごたついている草を更に掻き回すような真似をするのか。しかも木の葉を巻き込んで。
あの初老の大男には得体の知れなさがある。それは肌に染み付いた血が匂うような類いのものではない。だからこそいっそう気味が悪い。
「…厭なオマケがついて来た」
呟いて、踵を返す。
シカマルじゃないが、面倒臭いな。
ダンゾウに会いたいと言う波平、草の王子様伊草、転がり込んで寝てばかりいる牡蠣殻。
…磯に関わるとロクなことがないな…。
ガリガリと頭を掻いてカカシは歩き出した。
取り敢えず今は疲れをとって、本調子ではない体を宥めてやることだ。
どうせ昼も過ぎればまた呼び出されるだろう。それまでゆっくり休ませて貰おう。
欠伸が出た。
ふと薬事場の方に目が行った。一時、カカシの歩みが迷うように鈍る。
いや。今あそこに顔を出したところで…。
薬事場で仕事に勤しむ磯人の様子が思い浮かんだ。皆働き者で気のいい連中だ。波平や牡蠣殻と同じ磯の者とは思えない。師族の違いで磯の者でも随分差が出るようで、薬事場の磯人たちは剣呑な騒ぎとは無縁だ。
何がある訳でもないだろう。考えすぎだ。
そう思った。
胸騒ぎとも言えない微かな気がかりを押し戻し、カカシは家路を目指した。
後で後悔しようとも思わずに。