第4章 牡蠣殻磯辺
「何でわからん事があるかいな。ちゃんと聞きやれ。汐田藻裾の話じゃろ?違うのかえ」
「汐田藻裾がふたりいるんじゃなきゃ違わねえな」
「あんな娘御がふたりもいたら困るわいなぁ」
「…間違いねえ。汐田だな」
「間違いないかえ?それは重畳」
それ以上追及するでもなく、伊草はあっさり話を変えた。
「磯辺は大事ないかの。木の葉の蛞蝓姫の事ゆえ心配はあるまいがの」
「ああ、そうだな」
上の空で相槌を打ってシカマルは考え込んだ。
我愛羅のところへ行きたがっていた藻裾がどうして大蛇丸と居るのだろう。それに大蛇丸と言えばサスケ。あの蛇のところにはサスケが居る筈だ。
「……乗り換えたか?あの面食いめ…」
「面食い?わちのことかいな」
「いや、伊草さんのこっちゃねえよ」
「そう?」
「要らねえ情報くれなくていいから。それでなくてもごちゃごちゃしてんだからよ」
「なら聞かなきゃよろし。気の悪い」
「聞いてねえ。アンタが勝手に乗っかって来たんだろ。律儀に独り言にまで反応してくんなくていいスから」
伊草をいなして話を終えようとしたシカマルは、道の向こうからフラフラ歩いて来る人物に目を眇めた。
「おはようさん。これからお務め?朝っぱらからご苦労だねぇ」
カカシだ。
常日頃からどことなく眠たげな顔に重ねて眠たげな表情を被せて、いまひとつ掴み所のない上忍が立ち止まる。
「何?見かけないお連れさんだけど、もしかしてその人も磯の人?」
井草に目を止めて尋ねるカカシにシカマルは眉根を寄せた。
「その人"も"?」
里の内情に通じたカカシは薬事場の誰かに会ったくらいで含みのある物言いはしない。
波平か牡蠣殻か。
「朝っぱらから波平さんにつきあわされちゃってね。疲れたよ」
軽口抜きの本音だろう。老け込んだ様子で目を擦るカカシに何か画策して話している風はない。
「波平さんなら俺も会いましたよ。赤ん坊抱いてたけど、見ました?」
「あー、見た見た。大丈夫。あのコ、波平さんのコじゃないから」
それの何が大丈夫なのか。逆に波平の子供であった方が面倒がない。一体誰の子を連れてきたのだ。
「…良い男だなえ…」
カカシを凝視していた伊草が感に堪えぬ声を出した。
「うん?俺?あら参ったね。朝からそんな、照れちゃいますよ。ははは」