第4章 牡蠣殻磯辺
朝からついていないのはカカシばかりではない。
厄介な牡蠣殻を波平が連れて行ってくれてホッとしたのも束の間、今度は五代目から呼び出しがかかってシカマルはうんざりした。しかも伊草同伴とのお達しだ。どうせ話は磯絡み、薬事場の世話役である自分に面倒が降りかかるだろう事は自明の理。
「…一体何なんだ、アンタらは。キャラがキャラだけに汐田とかならまだ諦めもつくけどよ、何だって一見汐田よりマシそうなアンタらにまで面倒かけられなきゃなんねぇんだ」
伊草を連れて歩きながらシカマルは渋い顔でぶつぶつ言った。伊草はシカマルの不興を買っても何処吹く風、木の葉の賑やかな朝の様子を眺めて物珍しげだ。
「磯の汐田の事を言うとるならあちも知らんでもないが知り合いかの?」
朝飯を出す食堂から漂う味噌汁匂いに鼻を蠢かして聞き捨てならない事をサラッと洩らす。
シカマルはますます渋い顔をして足を止めた。
「汐田を知ってんのか」
「汐田藻裾なら知っとるえ。他の汐田は知らんの」
伊草は足を止めない。周りに気を取られてシカマルが立ち止まったことにも気付いていない様子だ。
「草でも有名なのか、あのアトミックボーンは」
汐田の栗鼠みたような顔を思い浮かべて、シカマルは苦虫を噛み潰したような顔つきでまた歩き出した。ここで伊草に逸れられては困る。
「や、草では金と力のない者は有名になぞならんえ。汐田は商才はありそうじゃが財力や権勢がある訳じゃなかろ?」
朝市の喧騒がする里の東を気にしながら、伊草はにんまり人が悪そうに笑った。
「じゃ何でアンタがあいつを知ってる?」
シカマルが怪しむように尋ねると、伊草はひょいといかつい肩を竦めた。
「仕事で知り合うたのえ」
「仕事?」
あの爆弾女は今何をやっているんだ?
「音で取引をしたとき大蛇丸の側におったがな、もし」
行きたそうに東の方を指差した伊草に首を振り、シカマルは額を掌で覆った。
「大蛇丸の側にいた?何やってやがんだ、あいつ」
「何って商売だえな?大蛇丸の手伝いをしとる」
残念そうに溜め息を吐いて伊草が詰まらなそうに答えた。
「大蛇丸のとこでわざわざ商売してる?何の為に?意味がわかんねえな」