第4章 牡蠣殻磯辺
「そうか。そうだったっけ。まあ、元気そうで何より…」
眼鏡のツルを持ち上げた波平がガイに視線を戻した。
「…それで?お前がここに居るという事は」
「牡蠣殻なら大事ない。一度魘されて目を覚ましたが今は静かに寝付いている。シズネが見ているから心配はいらないぞ」
一平を抱きたそうなガイを尻目に幼い寝顔をじっと見つめながら、綱手が答える。
「早く連絡を寄越せばガイに付き添いをやらせなくてもシズネなり私の弟子なり、医療に明るい者を付けたものを、余計な気を遣ったな」
「有難いお話ですが、正直気を遣ったのではありません。五代目に御目文字する前に時間が欲しかったから、敢えてガイに牡蠣殻を頼んだのです」
恬淡と答えた波平に綱手は顔を上げてにやりと笑ってカカシに目を走らせた。
「カカシと打ち合わせがしたかったのか」
「俺はたまたま運悪く居合わせただけですよ。示し会わせた訳じゃありません」
やれやれとばかりにカカシは欠伸を噛み殺して顔を顰めた。全く朝からついていない。
「確かにここで会ったのはたまたまだが、いずれお前とは早いうちに話をしておきたかったからな。寝不足で如何にも機嫌が悪そうなお前を見かけたときには、手間が省けた喜びで思わず抱き締めてやりたくなってしまったよ」
「…冗談でもそんな言わないで欲しいんですけどね…」
「誰が冗談だと言った?」
「冗談にしといて下さいよ、気味悪い」
「いずれにせよ本題はアタシと話すんだろう?カカシ、ガイ、ご苦労だった。帰っていいぞ」
綱手がやんわりと、しかし有無を言わせぬ声音で言い渡した。一平を波平に返し、戸口に顎をしゃくる。
「ここからは政務室で話そう。仮にもお前とアタシは影同士、立ち話する立場じゃなかろう」