第4章 牡蠣殻磯辺
「出来なくはない。現に木の葉の薬事場の連中は上手くやっているぞ。木の葉の者と結ばれて家庭を持つ磯人も出始めた。薬事場を出て市中に暮らし、木の葉の仕事場で働き出した者もいる。元の磯人たちは木の葉に馴染み、名実ともに木の葉の民になり始めている」
トンとひとつ訪いの音を立てて戸口に綱手が姿を見せた。後ろにガイが見える。
「五代目」
「よい」
一平を抱いたまま礼をとろうとした波平を綱手が押し止めた。
一平の寝顔に目を細め、腕を伸ばして波平を見る。
「深水の息子だな。抱かせろ」
「……抱くんですか?」
「……何だよ、その顔は。びっくりするくらいストレートに厭そうだな…?」
「そうですか?いや、私は単に一平が抱き損ねられて落とされたり、力加減を間違われて抱き潰されたり、まさかに片言でオバサンなどと口走って頭突きを食らわされたりしないかと、一応保護者の身として至極全うな心配を咄嗟にしてしまっただけです」
「全く至極全うじゃないぞ。どんな相手に抱っこを要求されていると思っているんだ、お前は」
「五代目火影千手綱手様に抱っこを要求されていると認識していますが、実は抱きたいのはガイの方でしたか?」
「アタシのこの格好を見て改めて誰が抱きたがっているのかよく考えてみろ。しかし成る程、お前がアタシをどう思っているか、よーくわかった」
「何と。今までご理解頂けていなかったのですか。そうですか。どうも私は周りに気持ちを伝える事が不得手でして」
「伝わらない方がうまく行く事もいっぱいあるぞ。だからお前はもう生涯不得手なままでいい。何なら不得手に磨きをかけるべきだ」
「不得手に磨きをかける?難しい事を仰いますな」
起こさないように気遣いながら波平は一平を綱手の腕に委ねた。
「久し振りだな、ガイ」
綱手に抱かれた一平を弾けるような笑顔で覗き込んでいたガイが、波平に声をかけられて背筋を伸ばす。
「お久し振りです、浮輪さん」
「相変わらず元気そうで何よりだが何だ、その凄い笑い顔は」
茫洋とした顔で問われてガイは更に凄い笑顔を炸裂させた。
「赤ん坊や子供を見ると感激しますな!」
「感激?」
「感動です」
「感動?」
もの問いたげに振り向いた波平にカカシが首を振る。
「こいつはこういう奴だから。忘れちゃいました?」