第4章 牡蠣殻磯辺
「で?」
「うん?」
「どうなのよ、牡蠣殻とは。上手くいきそうなワケ?」
砂への道行で擦れ違った暁の男ー干柿鬼鮫を思い出しながら、カカシは目を細めた。
どういう経緯か定かではないが、波平とあの男には牡蠣殻を挟んだ確執がある筈だ。牡蠣殻を手元に置くという事は、あの男と関わるという事。一筋縄でいくとも思われぬ相手をどう出し抜いて牡蠣殻を連れてきたのか。連れて来たからには勝算があるのだろう。…あればいいが、ないのなら厄介に倍々の輪がかかる。
「頑張ろうと思っている。応援ありがとう」
「………いや。応援とかしてない……」
「ふ。そうか。いや、いいんだ。言わなくてもわかっている。応援ありがとう」
「………びっくりするくらいわかってないみたいよ?」
「何だ。何にそんなにびっくりしているんだ?変な奴だな」
「ーわかった。わかったから、もうこの話止め。アンタと話してるとペースが狂う。…全く磯の人間は…」
「素敵?」
「…波平さん。散開してアナタちょっとネジが弛んだんじゃない?大丈夫なの?」
「今ちょっと浮かれているんだ。いや、凄く浮かれているな。何をしようか何をしてやろうか、沢山したい事や話したい事があってすぐには整理がつかない。何からどうしようかな。なあ、カカシ」
「それって牡蠣殻に?」
「そう。牡蠣殻に」
「…他の事も考えてんでしょうね、ちゃんと」
「考えておかなければ困るだろう。安心しろ。これでも里長だ。色々考えている」
「本当に?」
「という事にしておいて、見守ってくれ。手助けしてくれればなおよし」
「手助け?」
「ダンゾウ殿にこっそり繋ぎは取れるか」
「……いきなり物騒だね。何の為に?」
「牡蠣殻と会わせたい」
「ふぅん…」
カカシは顎を撫でて波平から目を逸らした。話は整理されるどころか散らかる一方だ。
「こっそりって事は五代目には内緒って事?」
「こっそりだからなぁ」
「…引き受けると思う?そりゃないよ、波平さん」
「そうか。ないか。残念だな…」
「ダンゾウと牡蠣殻を会わせてどうしようっての?まさか知らないでもないでしょ?ダンゾウは牡蠣殻が散開で木の葉を出た後…」
「ああ。お陰で牡蠣殻は砂と縁を結ぶ事になった。結果は悪くない。良いか悪いか、結果が出るまでわかるものではない。牡蠣殻がよく言っていたものだ」