第4章 牡蠣殻磯辺
ほら、矢っ張り面倒な事になったじゃない。
カカシは溜め息を吐いた。
珍しく深夜まで書類仕事に掛り切り、仮眠をとって今日は休日。うちに帰って風呂に入り、寝直そうとした矢先に磯の長、磯影を名乗って一年も経つかという旧知の浮輪波平の訪いを告げられる。厭な予感と共に持室に顔を出せば案の定。
幼子と牡蠣殻を抱えた波平がいた。
あー。…見るからに厄介そうだね、こりゃ…。
だからヤなんだよ。波平さんが理屈をこね出すとロクな事がない。
何で連れて来んの、ここに。
一度は息の根を止める為に探りかけた相手は、今も厄介な身の上のまま別室で朝っぱらからウォーミングアップがてら元気に出勤して来たガイに看られて寝こけている。
タイミングが悪い。砂へ向かったあの時こういう状態の牡蠣殻に会っていれば、今の面倒はなかっただろうに。
つまり、牡蠣殻は、今ここに居ないという事だ。
「朝から面倒をかけるね」
そういう浮輪波平の腕には頑是ない赤ん坊が抱え込まれている。
「朝でも夜でも大差ないと思うけど?」
「大差ない?ああ、まあそうかな。面倒は面倒だからね。日の出日の入りに関わりなく」
あからさまに呆れ顔で言ったのに、昼行燈が通り名の磯の影はどこ吹く風だ。
「事情は五代目が来てからでいいかな。何度も同じ話をするのは骨が折れるからね」
折りなさいよ、骨を。
それだけの面倒かけてんだから。
「それにしても珍しい。お前がこんな早くから働いてるなんて」
…早い訳じゃないって。…むしろ遅い帰りだよ…。
それも更に遅くなりそうだよね。アナタのお蔭で。
「随分勤勉になりましたねえ」
勘違いは止めなさいよ、寝不足の頭にイラッと来る。
「あのねえ、波平さん…」
「うん」
「突っ込みどころが多過ぎて朝から疲れちゃうんだけど、まずさ…そのコはナニ?」
「何って…このコが何に見えてるんだ、お前は」
「…いや、普通にちっちゃいコに見えるけど、何なの?迷子でも拾っちゃいました?」
「迷子なら然るべきところに届けて親元に帰してやらなけりゃならないだろう?」
「それをしてないってコトは、それ、波平さんのコって訳?」
「そういう覚えはない」
「ふぅん。案外寂しくしてるんだ」
「放っておいて貰おうか」
「いや、いいですよ、アンタが寂しかろうが寂しくなかろうが。俺に迷惑さえかかんなきゃ」