第4章 牡蠣殻磯辺
悪い人じゃないだろう。干柿さんのときと違ってそれはよくわかる。
けれど何故か厭だ。
多分、この人のせいじゃな……
いや、それもあるだろうがそれだけではなく厭だ。
厭な感じで尚且…
「そんな顔してどうした!眉間に皺が寄ってるぞ!」
「…元からですよ…。ほっといて下さい」
何だか嫌いだ。
また怠くなって来た。あぁ辛い。
肩に手が掛かる。
止めろ。触るな。
呼吸が浅くなって動悸が速まる。
ああ、そうか。泣いていたんだ。目が充血している筈。薬を呑まなければ。先生の薬を。
怠いから妙な事を考えてしまうのか…。きっとそうだ。
顔を上げたらマイト・ガイと初めてまともに目が合った。びっくりした顔をしている。
「目が真っ赤だぞ!?」
でしょうね。そういう質なんですよ。
「ホラー映画!?」
……は…?
「呪怨か!?」
…じゅ…、な、何で?
「赤目の俊夫か!?」
ああ、そういう…。あのコ、トシオくんていうんですか…。そうですか。
「俊夫ォ!!??」
いや、トシオじゃねえし。…薬…。
「伽倻子!!?」
…呪怨はもういいからあの、薬を…。
何でこの人ここにいんの?地獄?もしかしてこういう感じの温くて怠くて仕様もない地獄に堕ちちゃったのか?…芥子さんも白さんもいない地獄か…。堕ち損。
「大丈夫だ、怖くてもちゃんとついててやるからな!貞子!」
「貞子はリングだ黙れこの馬鹿者!!!」
「おお!そうだ。貞子はリングだリング!」
「伽倻子も貞子も聞いて要らん!薬!薬は何処だ!?」
「駄目だ磯辺!薬はいかん!さっき我慢したばかりなのに何て事を言い出すんだ!」
「薬違いだ頓珍漢め!訳が分かってないなら黙って話を聞け!こっちは寿命がかかっ…」
「誤魔化すんじゃない!悲しい!悲しいぞ!磯辺!」
「やかましい!何も誤魔化してなんかないしアンタが悲しくても知ったこっちゃないし、大体磯辺磯辺馴れ馴れしいぞ!?アンタ一体何なんだ!?」
「俺は木の葉の蒼き野獣、マイト・ガ…」
「どーでもいいよ、聞いてねーよ!黙れ凧!」
「た…凧ォ!?」
「風に吹かれてどっか行け!猿岩石ばりに彷徨って来い!行きて帰らぬ有吉になれ!兎に角今すぐここから消えろ!消えて下さい!お願いします!」
「落ち着け磯辺!」
「落ち着かせろ、頼むから!」