第4章 牡蠣殻磯辺
血を止める薬か楽になる薬か。
馬鹿、何を考えている。
血を止める薬だ。先生が苦労して調合法を見出してくれた、いつもの、大事な薬だ。
楽になる薬じゃない。
あれは駄目だ。駄目。駄目だ。駄目駄目ダメダメダメダメダメダメ……………
喉が渇いた。
……本当に?水を呑めば渇きはおさまる?
わからない。何か呑みたいとは思わない。でも何かが欲しい。
何が欲しい?
薬か?
馬鹿な牡蠣殻。
ぼんやりと霞んだ視界に人影がある。
ああ、これが干柿さんならいいのになぁ。
けれど間近なその人影は、気配も輪郭も明らかに望む相手のものではない。
誰だ?
そもそも本当に誰か居るのか?幻覚じゃないのか?
取り留めなく思案しながらじっと見ていたら、人影がこちらに身を屈めて来た。
石鹸の清潔な匂いと軽やかな汗の匂いがする。子供みたような香りだ。
「気付いたか!」
声が大きい。
「おい、大丈夫か!」
…声が大きい…。うるさい。
誰だ?
瞬きもせずに声の主を凝視する。キノコを思わせる変な頭が気になる。何処かで見たような頭だ。そう言えばこの匂いも、何処かで嗅いだものに似ている。
フと臭いもしていないカレーの匂いを思い出す。
今日二度目だ。
「…ロック・リー…?」
いや、違う。似ているけれど、彼はここまで熱苦しくなかった。
「リーじゃないぞ。マイト・ガイだ!」
……マ…?マイト何?だ、誰?
「よろしくな!」
よろしくってだからアンタ何者だ?
「辛いか?よく頑張ったな!」
何を頑張ったって?何だ何だ。止めろ、気持ち悪い。
「よく我慢した!偉いぞ!」
何の我慢?何で褒める?いやいやいやいや、変だよこの人。
こ…怖い…。
「堪えるたびによくなるからな!頑張れ!」
ああ、薬の話か。外道薬餌の事を知ってるのか。
いよいよ誰だ?何なんだ?
朦朧としていた頭と視界のピントがあってきた。
凄く変な男がいる。
キノコ頭に全身タイツ。歯を光らせて笑う顔が言うに言われぬ……むくつけさ…爽やさ…?どっち?どっちも?いや、何だかよくわからない。兎に角ピントがあったら熱苦しさが増した。
「…あの…」
掠れてガサガサした細い声が自分のものとも思われず、この声を聞くのは何度目か忘れたがその都度覚える困惑が、また頭を掻き回す。