• テキストサイズ

連れ立って歩く 其の五 木の葉編 ー干柿鬼鮫ー

第4章 牡蠣殻磯辺



血を止める薬か楽になる薬か。

馬鹿、何を考えている。
血を止める薬だ。先生が苦労して調合法を見出してくれた、いつもの、大事な薬だ。

楽になる薬じゃない。
あれは駄目だ。駄目。駄目だ。駄目駄目ダメダメダメダメダメダメ……………

喉が渇いた。
……本当に?水を呑めば渇きはおさまる?
わからない。何か呑みたいとは思わない。でも何かが欲しい。

何が欲しい?

薬か?
馬鹿な牡蠣殻。

ぼんやりと霞んだ視界に人影がある。

ああ、これが干柿さんならいいのになぁ。

けれど間近なその人影は、気配も輪郭も明らかに望む相手のものではない。

誰だ?

そもそも本当に誰か居るのか?幻覚じゃないのか?

取り留めなく思案しながらじっと見ていたら、人影がこちらに身を屈めて来た。

石鹸の清潔な匂いと軽やかな汗の匂いがする。子供みたような香りだ。

「気付いたか!」

声が大きい。

「おい、大丈夫か!」

…声が大きい…。うるさい。

誰だ?

瞬きもせずに声の主を凝視する。キノコを思わせる変な頭が気になる。何処かで見たような頭だ。そう言えばこの匂いも、何処かで嗅いだものに似ている。
フと臭いもしていないカレーの匂いを思い出す。
今日二度目だ。

「…ロック・リー…?」

いや、違う。似ているけれど、彼はここまで熱苦しくなかった。

「リーじゃないぞ。マイト・ガイだ!」

……マ…?マイト何?だ、誰?

「よろしくな!」

よろしくってだからアンタ何者だ?

「辛いか?よく頑張ったな!」

何を頑張ったって?何だ何だ。止めろ、気持ち悪い。

「よく我慢した!偉いぞ!」

何の我慢?何で褒める?いやいやいやいや、変だよこの人。
こ…怖い…。

「堪えるたびによくなるからな!頑張れ!」

ああ、薬の話か。外道薬餌の事を知ってるのか。
いよいよ誰だ?何なんだ?

朦朧としていた頭と視界のピントがあってきた。

凄く変な男がいる。

キノコ頭に全身タイツ。歯を光らせて笑う顔が言うに言われぬ……むくつけさ…爽やさ…?どっち?どっちも?いや、何だかよくわからない。兎に角ピントがあったら熱苦しさが増した。

「…あの…」

掠れてガサガサした細い声が自分のものとも思われず、この声を聞くのは何度目か忘れたがその都度覚える困惑が、また頭を掻き回す。

/ 150ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp