第3章 木の葉に馬鹿を突っ込めば
いや、正直言えばどんな厄介事にも巻き込みたくない。
ヒナタを見ていると腹が立つ。何故腹が立つかと言えば、色んな気持ちが有り過ぎて特にこれと言う理由も上げられない。以前ならば"不甲斐なくただ本家の長子であるだけのヒナタ"に腹を立てていると思い込めていたが、今は違う。
気持ちの扉が開いてみれば、思いがけない本音が待ちかねたように噴き出して来た。血の繋がり、筒井筒、相変わらず燻る僅かな反感や嫉妬、疑問に相反する保護欲、共感、畏敬、単純な好意、もしかしたら慕情。論ってみても確信が持てない混沌とした複雑な思い。
親しくなってむしろ混乱している。
ただ護りたいという気持ちだけは前にも増して強く際立って、今はそれに従ってヒナタと居る。
ヒナタの気持ちは知っている。ヒナタがどういう人間なのかも。
だから、自分の気持ちの何たるかを悟っても何が変わる訳ではない。ただ、ヒナタを護るだけだ。ずっとそうして来たように。
それでなくとも暇ではないのだから、餅を詰まらせている場合ではない。
「…牡蠣殻さん、大丈夫かな…」
タイミングよく呟いたヒナタに思わずキッと目が向いた。ヒャッと肩を竦めるヒナタに内心しまったと思いつつ、敢えてキツい目色を崩さず首を振る。
「牡蠣殻の事は磯影やシカマルに任せておけばいい。俺たちが関わるべき事ではない。あなたはしばらく薬事場への出入りは控えた方がいい。でなくとも今日の朝出で騒ぎを起こしているのだから自重すべきだ」
「…はい。ごめんなさい」
申し訳なさそうに顔を俯けたヒナタを見下ろして、ネジは内心溜め息を吐いた。
そうして素直に頷きながら、それでも関わりに行くのだろう、あなたは。牡蠣殻を心配して見舞おうとしたり、合間を見て薬事場に顔を出し、子らと遊び、磯師を手伝う。
そして自分はそれに振り回されるのだ。
顰めた眉の下で思いがけず目が和んだ。ふっと溜め息のような笑みすら溢れる。
そういう人だ。この人は。
だから…。
「兎に角帰ろう。すっかり遅くなってしまった」
「…兄さんが雑炊に釣られるから…」
「…お替りしたのは俺だけじゃないだろう」
「…美味しかったね」
「…旨かったな」