第3章 木の葉に馬鹿を突っ込めば
「…誰が行くと言った…?」
しかめ面で呟いたネジにヒナタが肩をすくめて笑った。
「やれやれ。置いてけ堀かいな」
伊草が盆の窪を搔きながら、シカマルに倣って縁側から表に出る。
「あ、伊草さんよ。一緒に…あれ?」
半開きの障子戸の陰に見えなくなった伊草を追おうと庭に顔を出したシカクが、頓狂な声をあげた。
「何だい?どうしたのさ?」
問いかけたヨシノにシカクが訝しげな顔を振り向ける。
「いねえぞ?」
「いないって伊草さんが?」
ヨシノが眉を顰めて、ネジとヒナタが顔を見合わせた。
「見かけによらず足が速いんだねえ。アンタも急ぎな。ホラホラホラ!」
ヨシノに急き立てられながら、シカクは首を傾げた。
「…まぁ、草も忍びの里だもんなぁ…?だよな?」
確信に欠けた様子のシカクに話を振られたネジは腕組みした。
「…俺に聞かれても…」
「聞きたい事があんなら本人に聞きゃいい事だろ?ホンットにうちの男衆は腰が重くて敵わないよ!」
ヨシノの目が三角になって吊り上がるのを見止めたシカクは、慌てて沓脱石に載った下足を突っ掛けた。
「じゃ、行ってくら。昼にゃ戻るから飯を頼むぞ」
「アンタもシカマルに奢って貰ったらいいだろ?たまには楽させてくれたらどうなんだい」
「お前の飯が一番なんだよ」
真顔で言って足早に庭を出たシカクを見送るヨシノの耳がちと赤い。
「…雑炊も旨いしな…」
呟いたネジにヒナタがクスと笑った。
「そうだけどそうじゃないのよ、にいさん…」
「問答は沢山だ」
溜め息を吐いてネジは庭を見渡した。
「草も忍びの里、か…」
磯も忍びの里であるように。
得体の知れないこの二里、気を許してはならない。
…大体磯や草と話しているとどうも話が逸れる。連中、まともに話の通じない馬鹿なのか?
朱に交われば赤くなる。
そんな馬鹿が木の葉を掻き回すのではたまったものではない。
どうも気に食わない。
ヨシノに目礼して、辞去の挨拶につかえるヒナタを促して玄関から表に出る。
胡乱な連中は早く出て行かせるに限る。
いつの間にか陽が昇りきって霧が晴れていた。ネジは傍らのヒナタを見下ろして、小さく息を吐いた。
何故こんなときに限って勝手な朝出などしたのか。感じ易く共感し易いヒナタには、こういう厄介事に関わって欲しくない。