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連れ立って歩く 其の五 木の葉編 ー干柿鬼鮫ー

第3章 木の葉に馬鹿を突っ込めば



「伊草さんのお連れならお客だろ?伊草さんは五代目に頼まれた大事なお客さんなんだから。失礼な事言うんじゃないよ!」

「……」

言いたい事はあるが、敢えて言うまいと呑み込んだ顔でシカマルが黙る。

「いやぁ、わちは大事な客とは違うわい。気持ちは嬉しいがの、まぁ胡散臭い厄介者が正直なとこだえ。磯辺も同様、お気遣いは無用にの。な、シカク殿?」

伊草がシカクに朗らかな笑顔を向けた。シカクは読めない顔で笑い返して盆の窪を掻く。

「そりゃお客さんにそんな事ァ言えねえよ、伊草さん。五代目に言い付かった以上、アンタはヨシノの言う通りうちの大事なお客だからな」

「いやいや、親切な事よ。木の葉は全く情に厚い。有り難い有り難い」

…狸め。

シカマルは眉を顰めてお茶を啜った。磯と草の騒動に薬事場を巻き込みたくない。散開で片をつけた筈なのに、磯を離れて木の葉に落ち着いた薬事場の住人を振り回すのは如何にも勝手な話だ。
増してそれが波平の私情絡みであるならば。

そうしてみると何とも思っていなかった牡蠣殻まで小面憎くなる。が、これもまた薬事場に世話役として肩入れする自分の私情か。
里と里の話は自分の介入出来る部分ではない。五代目が決めた事なら…

五代目が決めた?

ふと単純な疑念が首をもたげる。五代目が決めた事ならば何故波平は牡蠣殻を連れて真っ先に五代目に会いに行かない?牡蠣殻は波平を置いてきたと言ったが、功者の波平ならば大した時間差もなく木の葉に現れる筈だ。

波平は何をしている?

「おい、牡蠣殻さ…」

顔を向けて声をかけた牡蠣殻が俯いていた。
手から湯呑が転がる。
あ、と、思った瞬間、シカマルは反射的に膝を立てて崩折れた牡蠣殻にいざり寄ってその体を支えていた。

「…牡蠣殻さん?」

さっきまで減らず口を叩いていた牡蠣殻が、俯いていたまま顔を上げない。その俯けた顔のから、涎が糸を引いて垂れる。ヒナタが口を覆い、ネジが腰を浮かせた。

ヨシノとシカクが動きかけたのを制して伊草が立ち上がった。

「疲れとるんじゃな。ちと休ませてやりたいんじゃが、構わんかの」

殊更のんびりと言う伊草に、皆が違和感のある目を向ける。

「そう怖い顔をしては往生するわいな。何、ちくと庭先で外の空気を吸わせたいんじゃ。何せこの磯辺はほんのちょっとばかり、わちらとは体の質が違うとるでの」
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