第3章 木の葉に馬鹿を突っ込めば
牡蠣殻を抱えてスラと伊草が障子戸を開ける。囲炉裏の熱で温まった室に冷たい空気が流れ込んだ。
「待て、体を冷やしちゃ…」
毒じゃねえのか?
言いかけた矢先に何処か急いたような伊草の動きが止まった。
「おい…」
その傍らに足を踏み出したシカマルは、軒先の人影に気付いて口を噤んだ。
「おや、何処へ行かれます、伊草さん」
長いトンビを纏った人影は、眩燿の中腕に抱えたものを抱き直して、どうやら笑ったように思える。
「連れが早速世話をかけたようですね。申し訳ない」
淡泊な声に被せて、喉に籠もった幼い笑い声がした。赤ん坊…?いや、それにはもう少し大きい気がする。
「色々手間取ってすっかり出遅れました。さあ、磯辺をこちらへ」
幼子を片手で抱き直してもう片手を差し伸べた人影に、シカマルは呆れて苦笑いした。
「浮輪さん。久し振りだってのにアンタ変わんねえな。呑気だ」
「そうですか?」
磯の影が首を傾げる。
「まあ何かにつけ、遅いのが私でしてね。褒められたものではありませんが、そんな私をご理解頂いているのなら有り難い事ですよ、シカマルくん」
シカマルは苦笑いを呑んで波平を見た。縁側に片足をのせて伊草から引き寄せた牡蠣殻を抱き止めた波平は、これで両の腕に得体の知れない厄介者を二つ抱え込んだ事になる。
誰とも知れぬ幼子と、何処の何者でもないビンゴブッカーと。
アンタ一体、これから何をするつもりだ?