第3章 木の葉に馬鹿を突っ込めば
「女の子に何てモノの言い方だよ、ネジ」
ヨシノに肘で突かれてネジがお茶を噴きかけた。
「今のはヒナタ様に言ったんじゃな…」
「黙んな。ヒナタちゃんに謝りなさい」
「おいヨシノ。別にヒナタちゃんに言ったんじゃねえってんだからいいじゃねぇ…か…。……あー、何だ。山の様子はどうだった、シカマル。冬ごもりし損なった獣はなかったか?」
間に入ろうとしたシカマルの父シカクがヨシノにがつんと睨まれて、呆れ顔の息子に目を向けてお茶を濁す。
シカマルは両親を見比べて諦観の溜め息を吐いた。
山の神が強い家は上手く廻る。
「…そんなつもりはなかったんだが…」
肩を竦めているヒナタに今更気付いたネジが考えながらゆっくり言った。
「あなたに言った訳ではないにしても言い方がきつかったようだ。すまない」
「あ、違う、大丈夫。全然大丈夫」
ヒナタが慌てて首を振る。
「ネジ兄さんが悪いんじゃなくて…あの…」
「そうですよねえ。別に悪かないですよ、ネジ式は」
のんびり口を挟んだ牡蠣殻をネジがキッと睨み付けた。
「まだ言うか。俺はガロ派じゃないぞ」
「そりゃそうだ。ガロは事実上廃刊状態ですからね。大体磯辺餅って誰の事だ。餅は嫌いだと言ったでしょう。あなたは三歩歩けば何でも忘れる鶏なんですか。チキンは好物ですよ。食うぞコラ?」
「…ちょっと待て。俺のイメージを悪戯に破壊するな。鳥で言うなら俺は自由に羽ばたく鷹か鷲…」
「鶏だって自由に羽ばたきっ放しですよ。飛べないだけで」
「…それ、自由か?」
「飛べなきゃ不自由なんて誰が決めたんです?飛べりゃ自由とも限りませんよ」
「汚いぞ。反論し辛い小難しい持って行き方は止めろ」
「鷹や鷲で自分語りなんて、全く微笑ましい中二の春の流行り病ですねえ…。私もあなたも羽なんか生えてないし、この先生える事もないでしょう。飛べやしないのに飛ぶ話でいいも悪いもありゃしませんよ」
「まだ若いんだから中二病くらい満喫させてやれよ」
シカクが痛々しげにネジを見ながら盆の窪を掻く。
「そうですね。いいと思いますよ。そこらへんは全く私に関わりないので幾らでも満喫して下さって構いません」
目の下の隈を擦りながら牡蠣殻はヒナタを見た。
「ちょっとびっくりしちゃっただけですよね。ネジ式は白眼だから怖いんですよねえ」