第3章 木の葉に馬鹿を突っ込めば
「訳が分からないというのは奈良くんが汐田さんに会いたがってたとか、凄く探してたとかそういう事ですか?」
「…そういう誤解をアンタがしなきゃいいなって話をしてんですよ」
「え?誤解?何がです?」
「おい、伊草さん!ちょっと浮輪さん連れて来てくんねぇスか!?俺の手に負えねぇんだよ、磯の女は!」
シカマルの母ヨシノが淹れてくれた食後のお茶をゆったり楽しんでいた伊草が大儀そうに首を傾げた。
「それがの。置いて来てしもうたらしいえ」
「…置いて来たって、何が何を?」
「磯辺が波平殿をの」
「何だそれ」
「訳あって私を迎えに来て下さったんですが、置いて来てしまったんです。個人的に間の悪い状況が気恥ずかしかったものでつい…あ、ありがとうございます。頂きます」
ヨシノからお茶を受け取って、牡蠣殻が鹿爪らしく言う。
「重ねて私、巧者の身の上ではありますが、人に失せさせられるあの厭ぁな感覚がどうにも不得手でして…」
「いや、そんな事はどうでもいい。波平さんは何処にいんだよ?」
「山、ですかね」
「山ってうちのか?」
「違うと思いますよ。奈良家の山にサソリさんは出ないでしょう?」
「蠍…は居ねえな…。あれは寒暖関わりなく割とあちこちに居るらしいが、少なくともうちの山に出た事はねぇぞ」
「そんなあちこちに出るんですか、あの人は。迷惑ですねえ…」
「人?」
「サソリさんの話ですよ?」
「蠍の話だろ?」
「まあ兎に角、それが出ないなら奈良家の山じゃないという事ですね。何処か違う山に置いて来たんでしょう」
「でしょうって…アンタ、自分が何処から来たのかも分かんねぇのかよ」
「はあ…それがさっぱり…」
「けどあの人も巧者だろ?自力で帰って来れんだよな?」
「と思いますよ。まさか雲隠れはしないでしょう。多分」
「…大丈夫かよ。アンタと伊草さんを置いてかれても困るぞ、こっちは」
渋い顔で言ったシカマルに、ヒナタがポツンと返した。
「…きっと帰って来ると思う…」
だって、浮輪さんは凄く真剣に牡蠣殻さんを迎えに行ったのだから。
明け時の立ち聞きを思い出し、ヒナタは頷いた。
「帰って来ないなんてないよ。大丈夫」
「馬鹿な。当たり前だ。里人を置いて消える影があるか」
ネジが独り言する。ヒナタはビクと反応して反射的にごめんなさいと言いかけた。