第2章 砂
「毒をもって毒を制すっちゅうじゃろ」
「薬と麻薬を混同すべきではない」
にべもなく言い放ってきつい目を向ける我愛羅にらチヨバアは口をひん曲げた。
「混同なぞしとらんわ。毒は薬にもなると言うとるんじゃ」
「だとしても草の麻薬は禁忌じゃん?持ち出した事がバレたりしてみろよ。ヤベェんじゃねぇの?」
カンクロウが口を挟み、我愛羅はチヨバアを睥睨したままそれに答えた。
「麻薬は液状に加工されて出回っている。それ自体珍しいものではないが、精製されたままの純度の高い元薬となれば話は別だ」
「干柿のおっさんがよこしたのはその元薬か」
カサカサしていた封書の中身を思い起こして、ついでに干柿鬼鮫の木で鼻を括ったような嫌味ったらしい態度まで思い出し、カンクロウはムッツリした。いちいち癇に障る男だが、無闇に争いたい相手ではない。
「チヨバア、あなたが牡蠣殻に薬を持ち出す様に言いつけたのか?」
フと出た我愛羅の問いにカンクロウの眉が上がった。
「何で牡蠣殻にそんな事させんじゃん?アイツは砂のモンじゃねぇぞ。こっちの勝手で危ねぇ真似させてもバレた日にゃ後の面倒はみねぇ気だったんだろ?」
「だから頼んだんじゃ。何処の何者でもない牡蠣殻なら、バレても後腐れなかろう」
低く答えて、チヨバアは苦々しげに口を引き結んだ。
「そらねぇぜ。ふざけんなじゃん」
カンクロウの口から小さな舌打ちが洩れる。
砂の地下、診療台に横たわっていたボロボロの牡蠣殻が脳裏を掠めた。小さくて乾いた傷だらけの手の感触と、干柿鬼鮫とカンクロウを間違えて交わした朧げなやりとりも。
「これは牡蠣殻とやり取りして互いに決めた事じゃ。ワシらが押し付けた訳じゃない」
「知るか。俺はそういうのは嫌ェだよ」
「お前が嫌ったところで、そんなこたワシらにも牡蠣殻にも関係ない。昨今草の麻薬は幅を利かせ過ぎとる。黙認するのが難しくなって来とるんじゃ。解毒の術を探らにゃならん。年端もいかぬ忍びや市井の者が麻薬に侵される事例が出とるんじゃ。それが砂で起こるまで手をこまねいて待っている訳にゃいかん」
「確かに草はこのところ利鞘を上げるのに躍起になっている節がある。鷹揚だった以前の取り引きが随分と貪欲になって来た。…何が狙いだ?」
考え込んだ我愛羅の背後に長い人影が立った。