第2章 砂
チヨバアは早くに両親を亡くした孫息子のサソリを育て上げている。早世した二人は偉大な傀儡使いで、サソリはふた親に劣らぬ立派な傀儡使いになった。チヨバアの望んだ通り。
そして今そのサソリは、大首のビンゴブッカーとなって暁にいる。
「…チヨバア…」
エビゾウから鉄瓶を受け取った我愛羅が、チヨバアをそっと退けて急須に湯を注いだ。
お茶の香ばしく青臭い香りがすぅと湯気と一緒に立ち昇り、チヨバアが息を吸って、吐いた。
「小さいのが居るとお茶もおちおち呑めん。厄介なもんじゃ、子供なんちゅうモンは」
「…そうか…」
チヨバアの小さな背中に手をかけて、我愛羅はお茶を注いだ急須を卓に置いた。
「…で、それはそれとして、暁の干柿鬼鮫から何を受け取ったんだ?牡蠣殻と何を企んでいる」
「ぷ…ッ、ぁ、あぢぢッ」
お茶に口をつけたカンクロウが噴きかけて、チヨバアは厭ぁな顔をした。
「意外に世知辛いよな、お前…」
「それはそれ、これはこれはだ」
「若い癖に筋張りおって」
「俺は薹の立ったインゲンではない。大体筋張っている点においては、それこそ全く人に言う筋合いではないだろう、チヨバア」
「詰まらん事言いよるな。余計なお世話じゃ」
「そうだぞ、詰まんねぇぞ、我愛羅」
「カンクロウ。詰まらないのはいい事だ。何しろ掃除が楽だ」
「掃除機や排水口の話じゃねぇよ」
「何にせよ詰まらないのは悪いことではない。万事滞りないに越したことはない。詰まらない掃除機や排水口。素晴らしいじゃないか」
「掃除機や排水口の話じゃねぇって言ってんじゃん。お前、寝惚けてんのか?」
「俺が寝惚けているのは何時もの事だ。一体どれだけ寝不足が続いていると思っている」
湯気の立つお茶を喫して、我愛羅は湯呑みを卓に戻した。
「草に関わるものを受け取ったか。牡蠣殻はここ暫く草に逗留していた筈だ」
「干柿から受け取ったのは伝書でも運べる薄っぺらで小さなモンだったな」
独り言する様な我愛羅の呟きにカンクロウが追随する。
「薬か」
チヨバアに目を走らせて我愛羅は眉を顰めた。
「草の秘薬に関わる気か」
「草の秘薬ったら要は麻薬じゃん。そんなモンに何の用があんじゃん?」
「強い薬が毒になりかねんように毒も使い様によっちゃ薬になりうる」
苦々しげにチヨバアが口を割った。