第2章 砂
「この状況でそんな事を聞かれるとは」
呆れますよ。
胡乱に結びかけた言葉を呑み込んで言い直す。
「驚きますね」
「彼女もまた優れた人だ。生まれ里を盛り立てようと砂を去り、あなたを助けて来た筈だ」
「どの里にも事情がある。如何に磯が小里とは言え、矢鱈と内政に干渉されるのは愉快ではありませんね。それより雪渡りの運んだものは…」
「内政に干渉しているのではない。家族の話をしている」
「は?」
波平ばかりでなく、その場の全員がポカンとして我愛羅を見た。
我愛羅は怯まず腕組みして話を続ける。
「杏可也叔母の弟ならばあなたは私の義理の叔父だ」
「叔父?」
止してくれ。甥は一平で手一杯だ。
「姉は砂と関係を断って久しい。阿修理殿が亡くなられた以上子を設ける事のなかった彼女は既にあなたたちの叔母とは言い難いでしょう。増して散開まで接触すらなかった私があなたたちの叔父などとは…」
言いがかりみたような身内宣言は止めてくれ。
そう言いたいのをまた呑み込んで、
「…驚きますよ」
言い直す。
この自称俄甥の砂影は、どうでも杏可也に拘りたいようだ。正直海士仁より牡蠣殻より、杏可也といったところなのだろう。一平はその次。
干柿鬼鮫が雪渡りに託したモノへの興味がどれ程かすら疑問だ。
おいおい、砂影。止してくれ。…自分を見ているようで気が咎めるじゃないか。
何時の間にか寝入ってしまった一平をチヨバアから受け取って、我ながら腰の引けた格好で抱く。
「いや、まあ、家族として積もる話も干柿鬼鮫が送りつけた荷も海士仁の進退も気になるところではありますが、今は木の葉に戻らねば、牡蠣殻が何をしでかしているか…」
まず牡蠣殻は木の葉にいるのか。謀って干柿鬼鮫のところに戻りはしていないか?
「…気になって仕方ないのです…」
本音が出てしまう。我愛羅がフッと口角を上げた。
「磯影も混乱しているようだ。干柿鬼鮫の荷についてはこちらで詳細を明らかにしておく。荒浜と磯が関わるのも止めまい。後程カンクロウを木の葉に遣わそう。それまでに火影に筋を通しておくのだな。見切りでビンゴブッカーを他里に引き込むなど以ての外、今回の事は貸しにしておこう。波平叔父」
「無論恩に着ておりますが、砂影」
「無理無体を言うつもりはない。安心してくれ」