第2章 砂
方便のつもりで口にしたものの、それが意外にも本心である事に気付いて波平は半ばから口ごもった。
「厚く饗す気はないが悪いようにはしないつもりだ。磯の。牡蠣殻は一平を育てるのにどうしても必要か?」
波平の揺れに我愛羅が僅かに顔付きを緩めた。が、まだ引く気はないようで重ねて言い募る。
「木の葉に牡蠣殻を置くのは得策とは思えない。砂に来たとき牡蠣殻は木の葉の暗部に追われていた」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずですよ。そういう事にしておいて下さい。…私も考えなしに動いている訳ではありません」
「ならいっそ磯ごと砂に移りゃいいじゃん」
カンクロウがポツッと言った。
「なんなら砂に居着けばいんじゃん?木の葉にもそうしてる磯の連中がいんだろ?」
「そりゃ全然違う話じゃろが。それでなくても小さくなった磯をまた散開させる気か。そのうちなくなるぞ、磯っちゅう里が」
チヨバアが呆れ顔でカンクロウを見やった。
「お前っちゅう男は馬鹿なんだか賢いんだか、時々本当にわからんごとなるわ。どっちかったらどっちなんじゃ?やっぱり馬鹿なのか?」
「やっぱりって何だよ。やっぱり馬鹿なんじゃひとつも賢かねぇじゃん」
「いやいや、どっちかっちゅうたらアレじゃ、考えなしなんじゃないかの?今の場合無分別とも言えるの」
「俺の事なんか気にすんなよ?今そういう話してんじゃねえし」
口をひん曲げてカンクロウは意地の悪い表情を浮かべた。
「牡蠣殻に砂へ落ち着いて欲しいのはチヨバアたちじゃん?暁の大男から渡されたアレ、牡蠣殻からの届け物だろ?」
カンクロウの思わぬ発言に我愛羅と波平の空気が変わり、チヨバアとエビゾウがピタッと黙った。
「暁の大男。…干柿鬼鮫ですか」
眉間に癇症の皺を寄せ波平が隠居二人をじっと見た。
「彼から何を受け取ったのです?」
「汚いぞ、カンクロウ。今が今それを言い出すとは…」
キッと睨みつけるチヨバアのきつい目を流して、カンクロウは肩を竦めた。
「いずれバレんなら早ェ方がいいじゃん。俺だっていつポロッと言っちまうかわかんねぇしさ。磯と行き来が増えんなら今がいい機会じゃん」
「どういう事だ?」
我愛羅がカンクロウと隠居を見比べる。
「何を隠している?」
「隠すっちゅう程のこっちゃない」
エビゾウが答えた。