第2章 砂
そう言われても実感が湧かない。波平はふむと息を吐いて顎を撫でた。
これは困った。どうやら私は当初予想していた以上に子供に興味が無いらしい。
「……おい。何考えてるか大体わかるぞ」
呆れた様子のカンクロウが腕組みして渋い顔をした。
「大丈夫かよホントに。マジ置いてけば?一平も牡蠣殻も、何ならあの荒浜もさ」
「荒浜は砂に留め置く」
不意に静かに割り込む声があって、見ればいつの間にか我愛羅が戸口に立っていた。
「本人も了承した。磯影に異論はないか」
波平は目を眇めて我愛羅を見た。
「おはよう御座います。朝から申し訳ありませんね」
「刻限に縛りはない。互いにそうした身の上だ。気遣いは無用。荒浜は砂で預かる。今後磯から一切の干渉は受け付けない。よしか」
「それは困る。何しろこれから私が預かる一平は、海士仁の息子。更に海士仁は私と同門の深水の徒でもあり、牡蠣殻の質に明るい点においては深水師を凌駕して久しい。当人が否やと言うのであれば私に何か出来るものではありませんが、そうでないのであれば砂にしたところで今後海士仁と磯が交わる事に干渉は出来ぬ筈でしょう。砂も磯と同じように、何処の何者でもない海士仁を縛る権利は持たないのですから」
淡々と譲らぬ気を隠しもせず言った波平に、我愛羅が腕組みした。
「荒浜はビンゴブッカーだ。厄介を背負い込む程の余力が今の磯にあろうとは思えない。荒浜の赤子や牡蠣殻の事を言うのであればその二人も砂で預かる」
「マジかよ」
自分でも同じような事を言ったくせに、カンクロウが目を瞬いた。
「我愛羅。牡蠣殻もビンゴブッカーなんだぞ?」
「知らぬでもない」
「草との取り引きはどうする。牡蠣殻の首主は草じゃぞ」
チヨバアの言葉に我愛羅は事も無げに答えた。
「隠しおおせばいいだけのこと。木の葉に行ったところで条件は一緒だ。木の葉にしても草との取り引きがある。こちら同様隠しおおすか、しらばくれるしかない。ならばここに居ようが木の葉にいようが大差ない」
「それでは何の為に私が動いたか、意味が失せますよ。単刀直入に言ってとんだ骨折り損、私は彼らを他里に引き渡す為に腰を上げたのではありません」
波平が半ば感心したような様子でマジマジと我愛羅に見入った。
「漁夫の利を得るとは正にこういうのを言うのでしょうねえ…。何とも厚顔な」