第2章 砂
「でしょうね。私もそう思います」
「…いよいよ何をどうしたいの、アナタは」
カンクロウは呆れ顔で波平を見やった。一平をチヨバアに渡して、腰に手を当てる。
「牡蠣殻を磯に戻すんなら牡蠣殻を保護する環境がなきゃ駄目じゃん。牡蠣殻の為ってより、他の里人の為によ。その為の情報を収集すんのに牡蠣殻を使う?危ねえじゃん。話になってねえよ。アンタらも何時迄も木の葉の世話になってらんねえだろ?どうすんの?」
何を考えているかわからない波平の顔を見ていると溜め息が出る。
「もう牡蠣殻も荒浜も一平も砂に置いてけよ。アンタどうも信用なんねえ。ホントは何も考えてねぇんじゃねえの?」
「ははは」
全然何も考えてなさそうな空笑いを上げた波平にカンクロウは眉尻を下げた。
「はははじゃねえじゃん。大丈夫か、浮輪さんよ」
「いやまあ、これで私も里を束ねる立場にありますからね。何も考えていなくもないんですよ」
「…頼むよ、ホントに。ボロボロの牡蠣殻なんか見たくねんだからよ」
頭を掻いてカンクロウは斜め下に顔を俯けた。
チヨバアと海老蔵が顔を見合わせ、波平が目を眇める。
「単刀直入に言って、君は牡蠣殻を好いているのですか?」
あっさり聞いた波平に、隠居二人が首をヒョッと伸ばした。カンクロウは顔を上げて、へ?と目を見開く。
「それ聞いて何になんじゃん?」
「何にもならない?」
「いや、聞いてんのは俺だし」
「いえいえ、先に聞いたのは私ですよ」
「まぁどっちだっていいけどよ」
カンクロウは口の端を意外に繊細そうな長い指で掻いて、口をへの字にした。
「連れてくんならちゃんとしてやれよな、ちゃんと」
「勿論そのつもりでいますが」
波平が興味津々の隠居の視線を流しながら、カンクロウをじっと見た。
「…そうですね。では君ならどうちゃんとします?参考までにお聞かせ願えないかな」
「…あのさぁ…。いや、自分で考えなさいよ。俺に聞いてどうすんじゃん?心配なヒトだな、アンタも…」
「君に心配されるのは何だか悪い気がしませんね」
真顔の波平にカンクロウは変な顔をした。
「何言ってんじゃん。しっかりしろよ、アンタこれからコイツの親代わりになんだろ?」
チヨバアに抱かれた一平の頬を突いて、フッと笑う。
「親がしっかりしてなきゃ子供が困んじゃん?」
「そうですね」