第9章 年始ー長丁場ー
「テマリさんがここにいるだろうってカンクロウさんに聞いたから顔出して見たんだけど」
いのが手を振ってまたカンクロウを顧みた。眉を上げるカンクロウに目配せして、いのはその腕を引っ張った。
「まだ待ち合わせには間があるし、アタシたち先に行ってるから二人は後から…」
「ああ。別に焦って出るこたねえよ。俺らもどっかで茶ァでも呑んでのんびり行くからよ」
カンクロウが調子を合わせて言うのに、シカマルが全然空気を読まずに手を振った。
「焦るも何もこっちも今出ようかってとこだったんだ。気にすんな」
馬鹿。
カンクロウと目を見かわして口をへの字に溜め息を吐いたいのが、眉を上げてシカマルを睨みつけた。
「ホンット気の回らない…」
「何がだよ」
だからお前がだ。
「そう言えばおじさんとおおばさんは?」
呆れたようにシカマルから目を逸らし、いのは周りを見回した。大掃除を済ませて綺麗に片付いた家の中は、今の他に人の気配がない。
「仕事納め」
テマリの食べ残した林檎を律儀に齧りながらシカマルが答える。
「へえ?珍しいね。おじさんが大晦日まで仕事を持ち越すなんて」
「さあ。夫婦揃って出てったから、仕事納めとか言いながらどっかで忘年会でもしてんじゃねえのか」
「ああ。成る程ね」
結局戻って来なかった両親を思い出し、いのは納得して頷いた。そういうことか。
「うちの親も出てって帰って来てないんだよね。てことはチョウジんとこも”仕事納め”かな」
「じゃねえのか。迎えに行ってやろうぜ」
「まだ家にいるかな。…まさかもう年越しそばなんか食べてないでしょうね」
「いいじゃねえか、食ってたって。減るもんじゃなし」
「何言ってんの。食べたら食べた分減るわよ。体重は増えるけど…て、そういうことじゃなくて。縁起物なんだから疎かに食べちゃ駄目だって話でしょ」
「…へえ」
カンクロウが意外そうに顰め面のいのを見下ろす。
「アンタ見た目よか古風じゃん」
「何よ?悪い?」
「悪かねえよ。むしろいい」
「またぁ!またまた!」
嬉しそうに肘でカンクロウを突くいのにシカマルが詰まらなそうな目を向けた。
「おい」
「何?」
「人んちでいちゃついてんじゃねえよ」
「は?誰がいちゃついてるって?びっくりすること言うなっての。アンタに言われたくないわよ」