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連れ立って歩く 其の五 木の葉編 ー干柿鬼鮫ー

第8章 年納め



「知らん。嫌い」

「……好き嫌い言ってると立派な大人になれませんよ、自来也様」

シズネに言われて自来也は朗らかに笑った。

「だからわしゃとっくに大人だって」

「年さえ取れば大人になれると思ったら大間違いなんだぞ、自来也」

「綱手様が仰られることでもないような気がしますねえ」

これまたシズネに言われて今度は綱手が朗らかに笑う。

「お前が大人で本当に助かってるよ、シズネ」

シズネは赤らんだ顔をしかめて咳払いした。

「そんな褒めたって何にも出ませんよ。さあ、お手伝いしますからさっさと片付けちゃいましょう」

綱手の前に積まれた書類の半分を持ち上げて引き受けたシズネにニコッと笑った綱手が、自来也に視線を移して首を傾げた。

「自来也」

「おう?」

「お前は手伝わなくていい」

「おう」

「もとから手伝う気なんかないだろうが」

「応援する気は満々じゃぜ」

「いらん。お前は薬事場に行って波平を誘って来い」

「ええぇ?」

「そうだな。牡蠣殻と、あの伊草にも声をかけるといい。一平を薬事場の女衆が見てくれれば、牡蠣殻も少しくらい顔を出せるかも知れない。一平の世話で自重しているようだが、牡蠣殻もイケるクチらしいから」

「ふうん。一平は相変わらずかよ?」

「少しは道理もわかるようになってきたようにも思うが何しろまだまだ小さいからなあ。頑是ないのは仕方がない」

「一平も連れていきゃよかろうが。わしも面倒みるぜ?」

「お前に子供の面倒が見れるのか」

「こう見えてわしゃ子供に好かれる質」

「好かれる質というよりは中身が一緒なんじゃないですかね」

シズネが書類を繰りながら淡々と辛辣なことを言う。

「…自来也、お前まだ襁褓の世話になってるのか…」

「…綱手、お前そんなこと真顔で聞く程耄碌したかよ」

「綱手様。自来也様のお年になったらまだ世話になっている、ではなく、また世話になり始めた、が正しいかと思われますよ。変な話してないで仕事に集中して下さい。自来也様はさっさと薬事場へ行かれてはいかがでしょう。磯影や牡蠣殻さんが手を貸して下されば、尚早く仕事が済むと思うんですが」

「しょうがねえのう」

自来也が渋々腰を上げた。

「断られたら無理して連れちゃ来んからの」

「多少は無理しろ。お前には無縁の話だが、余人は遠慮というものをする」

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