第8章 年納め
「自来也様が物凄く手伝って下さったので、皆の仕事も含めて」
「ああ」
閉まった窓を見て綱手は頷いた。
「それを物凄く効果的に伝えようとしてしくじったのか」
「恐らくそうなんじゃないかと」
「大体木の葉にいたのか、アイツ」
「以前来たとき以来居っぱなしですよ」
「全く気付かなかったな。顔を見せないからとっくにまた出かけたかと思っていた」
「綱手様に休ませようというのはそもそも自来也様の発案なんです」
「ほう」
「色々驚かせて、喜んで欲しいと思ったんじゃないでしょうか」
「その集大成がさっきのあれか」
「そういうことになりますね」
「…詰めが甘いんだよなぁ、自来也は…」
「そこがいいところなんじゃないですか?」
「そんなところがいいところじゃ見るとこないってことにならないか?」
「…ちょっと間違えました?」
「それが本音なら別に間違っちゃないだろ。自来也が不憫なだけでさ」
窓に目を向けて綱手はフッと可笑しそうに笑った。
「私もそう思うものな」
「そんな、綱手様がそれを言ったら本当に不憫になっちゃいますよ?」
「不憫だと思うなら助けに来るなり心配するなりしろー!!!」
バーンと政務室の扉が開いて、雪まみれの自来也が現れた。
綱手が物憂げに、シズネは静かに、そんな自来也を眺める。
「寒そうだな、自来也」
「中に入る前に雪を払って下さいよ。大掃除したばっかりなんですから」
「…ぅわあ…。不憫なワシ…」
「そこがお前のいいところだ」
「止めろ!長い付き合いの果てにそんなこと言われるとますます不憫になるだろうが」
「相手を問わぬ滅私奉公の、所謂博愛主義だな。人が好すぎるとも言える。得難い美点だが足を取られ易い短所でもある」
「おお。何となく褒られとる気がする」
「…そうとれるおおらかさもお前のいいところだ。お節介ばかり焼いて転けるなよと言っているのに」
「何だ。褒められちゃおらんということか」
「そういう訳でもない」
しかめ面の自来也に、指先で額へかかる髪を払った綱手がクスンと鼻を鳴らして笑った。
綺麗な綱手がこんな風に無作為に笑うと、物凄く気を惹かれる。言わんや綱手ファンクラブ一号二号の自来也とシズネ足るや。
「まぁ折角の気遣いだ。皆が休ませてくれると言うならば甘えよう」