第6章 年の瀬、花屋の二階で
「逆にあんな物騒な相手にアンタに売るモノなんかありませんとか言えます?」
目を吊り上げたいのにきっと睨まれてカンクロウはこめかみを掻いた。
「言ったらいいじゃん。鮫が花に何の用があんだよ」
「はあ?そこまで言わなくてもよくない?誰でも花くらい欲しくなるものでしょ。花は買い手を差別しません。お客様は神様です。それにあの人が買ったのは花じゃなく、指輪。花のスプーンリングよ」
花屋の娘らしく花と客を擁護したいのがつんとする。見た目通り、可愛いが気が強い。
「ああ」
カンクロウはこめかみを掻いていた手を胸の前で開いて、それをしげしげと眺めながらちょっと笑った。
「あれはそういう指輪か」
「知ってるんですか」
「アイツが抱えてったヤツが後生大事に身に付けてるぜ。いい仕事したんじゃん?」
「…あれ?でもそしたら波平さんは?」
事情を知らないいのが興味津々の様子で階段の方を見た。
「…ま、コイツはオフレコで頼むぜ。ちょっとの間だろうから辛抱してやってくれ。こんなこたそうそう出来ゃしねぇ」
カンクロウが苦笑いする。
「親を苦しい言い訳で追い出した上に脅されたりとか、こんなんしょっちゅうあってたまるかっての。あ、どうぞ。座って下さい。こんな店先で申し訳ないけど今お茶を淹れますから。ここ、寒いでしょう?」
いのがカンクロウに自分が座っていた椅子をすすめた。カンクロウは首を振って作業用らしい小さな丸椅子をストーブの側へ置き、そこへ腰掛ける。
「花屋なんだから寒ィのはしょうがねえじゃん。気ィ遣わせて悪ィな」
「いえいえいえ。そんなこと、全然、ちっとも」
急須にお茶を入れながら、いのはちらとカンクロウを見た。
「最近テマリさんはどうしてます?」
「テマリ?変わりねえよ。良くも悪くも。てかアイツも今…」
「シカマルから手紙が行くでしょ?結構頻繁に」
「ん?ああ、来てんな。テマリもよく出してるし」
「あの二人、今どうなってるんです?」
いのの目がキラッキラしている。カンクロウは慌てて手を振った。
「いや、俺にそんなこと聞いても知らねぇよ?テマリが手紙を見せる訳もねぇし、そういうことあんま話さねぇからアイツ」
「まあまあまあまあ、そう言わず」
湯気の立つ熱いお茶をすすめて、いのがぐいと身を乗り出した。いのが乗り出した分カンクロウは身を引く。