第6章 年の瀬、花屋の二階で
「何がって、あなたが」
「そうかよ。悪かったな、俺で」
「いやいや、そんなそんな。構いませんよ、あなたでも。ただ気が抜けただけで」
「構いませんって何だよ。肩落として上目遣いでこっち見んじゃねえ。何で顔見せただけでがっかりされなきゃなんねんだ。何処行っても可哀想だな、俺はよ!」
「え?何処へ行ってもがっかりされるんですか?…それは…相当ですねぇ。お気の毒様です」
「…そんな気の毒がられる程がっかりはされねぇよ?いや、話の流れでちょっと盛っちゃっただけで、別に俺はそんな…そんな顔で見るなよ…。泣きたくなってきちゃったじゃん…」
「泣きたい?ああ、それはいけません。慰めて差し上げたいところですがまあそれはそれとして、カンクロウさん、あなたどうしてここに?」
「俺が木の葉に用があっちゃ悪ィのかよ」
「絡まないで下さいな。私は会えて嬉しいですよ。予想した通りに物凄く元気になるって訳でもありませんが、全くお変わりないカンクロウさんのお姿を拝見出来て、これぞ正しく欣幸の至り…」
「………」
「と、言っては言い過ぎですかね。うん。言い過ぎだな」
「あのな」
「はい」
「山中って花屋があるだろ」
「山中というと、いのさんのお宅の話ですか?」
「そう、その山中」
「いのさんをご存じで?」
「ご存じじゃ悪ィか」
「いえいえ、悪かありません」
「気ィきつそうだけど綺麗なコだよな」
「よくご存じで」
「まぁな。可愛いコは自然とインプットされることになってんだ、俺の頭は」
「ほう。それは便利ですね」
「便利…」
「で、何ですか?今日はいのさんに当たって砕けにいらしたんですか?」
「当たるは兎も角砕けるって何だコノヤロウ」
「カンクロウさんの当たる毎に悉く砕けそうなところは大層オイシイ持ち味だと思いますよ」
「そういうオイシイ思いはしたくねえ」
「で、他に何しに木の葉へ?」
「…当たって砕けに来たって決めつけてやがんな。まず行くぞ。ここで突っ立ってちゃ邪魔だし目立つ」
「何処へ?」
「山中の花屋」
「私にお花を買って下さるんですか?今時分なら菊か南天、榊?」
「…榊くらい自分で買えじゃん。縁起物を人にねだんじゃねえ。オメーにくれてやんなら花より拳骨だ。大体女に花をやんのに一緒に行って選ばせたりするか。そんなん不粋じゃん?」