第4章 月を捕まえる(月島蛍)
休み中の、ある日の夜。
私は学校に忍び込んだ。
日の落ちた校内は、部活をやっている体育館とか以外に光がない。
目的はプール。
勿論、鍵が開いている訳もなく、フェンスをよじ登ってプールサイドに足を着く。
「何してるの。」
突然の背後からの声に肩が跳ねた。
聞き間違える筈のない、声の主を振り返る。
不審者を見るような目で私を見ている月島がいた。
体育館使ってたの、バレー部だったんだ。
なんて、質問と関係のない事を考えていた。
「…センセー、不審者がいまーす。」
「ちょっ!止めてよ。」
私の答えを待つのに飽きたのか、人を呼ぶには小さく平坦な声を出した。
それでも、静かな校内では響いてしまうかもしれないと、慌てて止める。
「…何してるの?」
また、同じ質問。
今度は答えるよね、と言わんばかりの作り笑顔。
「…今夜、満月じゃん?私、月が好きじゃん?」
「それがプールにいるのと何の関係があるか、聞いてるんだケド?」
中々、的を射ない私の返答に苛立ち始める。
「…月を捕まえにきたの。」
「…うわ。何ソレ。」
相変わらずの不思議ちゃん回答をする私を笑って、フェンスに近付いてきた。
「あの、遠い月をどうやって捕まえる気?」
「…ん?こうやって。」
にっ、と口の端を上げて笑ってから、プールの中に服のまま入った。
夏とは言えど、水は少し冷たい。
離れた場所にいる月島は、驚いて目を瞬かせてた。
そんなものは気にせず、両手で水を掬い上げる。
手のひらの空間に出来た水溜まりに月が映り込んだ。
「ほら、捕まえた。」
「水に映ってるだけデショ。」
「でも、今は私の手の中にあるよ。」
月島の現実的な言葉なんて気にせず、手を見つめる。
指の隙間から水が零れ落ちて、すぐに月は私から離れた。