第4章 月を捕まえる(月島蛍)
少しずつ遠ざかる背を追い、引き止めるように抱き付く。
体は濡れたままだから、月島のジャージに水が染みた。
「私、初めは月島って名前が好きだった。
でも、さ。ノート貸してくれたり、勉強見てくれたり、今だってくだらないって思っても一緒にいてくれたじゃん?
そういうトコ、好きだよ。今は名前とか関係無いから。」
「…冷たいんだけど。」
真剣に気持ちを伝えているのに、月島は今の行動を嫌がるだけ。
それでも、離してなんかやらない。
「私、今日は月を捕まえにきたの。…月島を捕まえにきたの。だから、離さない。」
さっきの言葉が本心なら、このまま私に捕まって。
言葉には出さず、腕の力を強めて願った。
月島の手が、私の手に触れる。
強引に指先を絡ませられて、腕を引き剥がされた。
「君さ、そういうのは目を見て言ってくれない?」
すぐに手が離れて、こちらを振り返る月島。
顔を見上げると、彼の頭越しに月が見えた。
恥ずかしさから気を逸らすように、満月を視界の中心に入れる。
「目、見てなくない?君が告白する相手は、月なの?」
恥ずかしくて、見ていられなかっただけ。
私の目の動きをよく見てらっしゃる。
「…好き、です。月島の名字じゃなくて、月島自身が、蛍が、好き。」
覚悟を決めて視線を交わらせた。
月島の唇が、笑うように歪む。
まるで三日月のような形のそれが近付いて。
正答のご褒美だとでも言うように、唇が掠め取られる。
私が、満月を捕まえにきた筈だったのに…。
この瞬間、月が私を捕まえた。